ブックスエコーロケーション

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『マルドゥック・スクランブル“-200”』

マルドゥック・スクランブル“-200”』
著:冲方丁 イラストレーション:寺田克也 
初出【SFマガジン2004年2月号】

雑誌に載ったのまではさすがにカバーしていないようなので。あと作品を読んだことが前提のレビューです。あしからず。

第24回日本SF大賞を受賞した『マルドゥック・スクランブル』のプレストーリィ。
驚いたのが「ウフコック」「ボイルド」「イースター」の関係性でした。バランスのとれた、しっくりハマったバディ物の典型のように、3者の役割分担が明確で実に心地のいい三角形を形成していました。

そして読者は当然のように、『マルドゥック・スクランブル』における「バロット」「ウフコック」「イースター」という3者の関係と比較します。『マルドゥック・スクランブル』において「バロット」の保護者/庇護者として「ウフコック」「イースター」が存在しました。乱暴な言い方ですが、「バロット」はその関係性を脱し、別のレベルにて再構築することによって「成長」を提示していました。

今回の『〜“-200”』ではすでに定まった関係として「ウフコック」「ボイルド」「イースター」が存在していました。短編として、このわかりやすさは実に有効な手段だと思いました。
この3者なら解決できない事件は存在しないのでは、感じるほど強固な安定性と存在感がありました。

その3者のうち「ウフコック」と「ボイルド」は、会話によってその内面を見事に切り出されています。そこで提示されるのは、『マルドゥック・スクランブル』で見られる両者のいびつな関係を予見させるような不安です。
その不安が垣間見える瞬間、強固であったはずの3者の関係がぐらりと揺らいで見えます。

これがじつにたまらない(笑)

つまりなにが言いたいかというと、そんな揺らぎがおそらくより顕著にみられるであろう『マルドゥック・ベロシティ』はまだなのかしら、ということに帰結するわけですね(笑)