ブックスエコーロケーション

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新海誠『君の名は。』

君の名は。(通常盤)

君の名は。(通常盤)

 どーも、ゼロ年代残党オタク・KASUKAです。不安8割、期待2割の状態で、新海誠最新作『君の名は。』を観てきました。
 ぼくは以前に、こんな記事を書いています。
 kasuka.hatenadiary.jp
 自分で言うのもなんですが、なかなかに愛憎入り交じった感じが出ているなぁと思います(笑)。そのあと『星を追う子ども』も『言の葉の庭』も、なんだかんだ言ってちゃんと観ています。でも両方ともそんなに自分のなかではパッとしない、『秒速5センチメートル』のときに感じたものが覆されるようなことはありませんでした。なので、今作『君の名は。』も不安のほうが大きかったんです。もちろん、キャラデザは『とらドラ!』『心が叫びたがってるんだ。』の田中将賀、つまり現代的でめっちゃかわいい。作画監督は『もののけ姫』『千と千尋の神隠し』の安藤雅司、つまりめっちゃ動くしキャラに演技させられる。という強力布陣であったことは知ってはいましたが……。
 前置きが長くなりましたが、ここから『君の名は。』の感想です。なるべくネタバレしないように書きますが、気になるかたはお気をつけください。




 『君の名は。』、すばらしかったです。おもしろかった。完全に手のひらクルーです(笑)。
 新海誠が得意とするテーマやモチーフが総決算的な位置付けがんがん盛り込まれいて、それでいて笑いどころもある。現代的なツール、物理的/時間的な距離、都会と田舎のぎりぎりでダサくならず揶揄にならないバランス感覚(三葉の悩み、痛さは、彼女の若さに起因するというのが「まぁしょうがないよなぁ」と思わせられるのが、うまいなと)。構成的にも無駄がなくずっと集中してみていられました。つまり、映像にそのシーンで必要充分な情報が開示され、意味があるので、決して冗長にはならない。リリカルで過剰な説明やモノローグが抑え気味で、セリフがすっと耳に馴染むもの、そこに生きる人の言葉として機能するものになっていた、というのが、よかったですね。
 映像のすばらしさは言うまでもないでしょう。今作も、都会や田舎の風景のなかに、分け隔てなく「懐かしさ」を見いだすことできる。そしてその背景ボードのすばらしさが、実は今作の、テーマのひとつに合致している。なので1番好きなセリフは「あんたの描いた糸守、あれは良かった」ですね。あの何気なさに込められた想いに、思わず涙しました。その意味で、こういう言い方はすごく卑近ではあると思うのだけれど、『君の名は。』は震災文学、3.11以後の映像作品であるのだなと思ったのでした。そういう見方も、もちろんできるのだろうな、と。そうだからこそ、瀧が三葉の相手として選ばれたのでしょう。彼が(表立っては説明されていないが彼の部屋の小道具に注目するとわかる!)目指していたものが、変化していく一瞬を切り取り、想いとともに残し伝えていく、というテーマに合致する存在だったわけです。
 そしてなにより、ついに正しく遠距離恋愛を描き、ラストではキャラクターたちが出会う物語となっていました。既存作品では、片方だけの視点から行き場を失った感情を、ごろりとそのまま描いてしまうことによってかなりバランスを欠いていたこともあって、たいへん気持ち悪かったのですが、今作では男女を交互に描くことで克服してきたように思いました。
 さらにストーリー的な意味で、ラストはタイムリミットのあるスペクタル展開もあります。
 なので『君の名は。』は、ぼくがわかる範囲で言えば、3本の線がより合わさった重層的な物語になっていました。この厚みは基本、単線的だった既存作品にはなかった部分だと思います。厚み、重要ですね。
 あとはSFファンとしてSF設定にもやはり言及しておかなければと思いますのでギリギリネタバレにならない感じで書くと、梶尾真治+伝奇って感じでむしろとても懐かしく、これくらいふわっとした見せ方でも、絵の力でかたちになっている! と感じ入りました。まぁあのシーンでくどくど説明するよりかは絵の力で突破したほうがぜったいいいわけです。リズムが損なわれるし。なお、その幽世あたりは『星を追う子ども』を想起させる、ファンタジーの文法で、「ああ総決算的!」と楽しめましたね。
 劇場映画なのですがOPがあって、それが端的に言って伊藤計劃の書く小説のプロローグみたいな、すべてがそこにある暗示的なやつだったのもよかったですね。え、え、え、と最初からなるので引きこまれましたね。
 個人的に、『シン・ゴジラ』のときはそうは思わなかったのに『君の名は。』には「負けてらんねぇなぁ」と思いました。たぶん、なんというか文脈が近い/ゼロ年代残党オタクだからこそ思うので、ぜひ『秒速5センチメートル』が苦手な人ほど見に行って欲しい映画となっています。
 最後にもっとも個人的なことを書きますが、この映画に2億点つけたいところがあって、それはもちろん雪乃先生のカメオ出演でありましょうw