ブックスエコーロケーション

「SFとボクらの場所」をテーマにした本屋のブログです。実店舗はありません。開業準備中。

やつはみ喫茶読書会六冊目 飛浩隆『自生の夢』

 今回の読書会では、前回の反省を生かしレジュメを切りました。先行作品の話題だけに終始することなく、小説で描かれていること/描かれなければならなかったことについて語りたい、と思ったからでした。結果として会そのものはとても満足のいくものとなりました。またその模様とインタビュー(!)が21日以降の信/濃/毎/日/新/聞に掲載されますのでよろしければご覧ください。というかどんな記事になるのか楽しみです。
 また期間中、半杓亭では他にも様々な催しが行われております。2010-10-08 - 酔呆庵/酩迷録にも記述がありますので、最寄の際はよろしくお願いいたします〜。
 あとむしろこちらがメインなのですが、レジュメを、会で出た話題を少し追加してアップしておきます、よろしければご覧ください。

-あらすじ
 間宮潤堂――かつて七十三人を死に追いやった稀代の殺人者が、かの怪物〈忌字禍〉を滅ぼすために、いま、召還される。第41回星雲賞日本短編部門受賞作。書き下ろしSFアンソロジー「NOVA1」河出文庫に収録。

 「この作品も〈数値海岸〉に集約されるのではないのか?」


-飛浩隆(TOBI Hirotaka,1960-)
 1960年島根県生まれ。島根大学卒。1981年、第1回三省堂SFストーリーコンテストに入選、83年から92年にSFマガジンに多数の短篇を発表。10年の沈黙の後、初長篇にして《廃園の天使》シリーズ第1作『グラン・ヴァカンス』を発表。05年、SFマガジン誌上に発表した中篇を改稿して収録した『象られた力』、続いて06年に《廃園の天使》2作目の短篇集『ラギッド・ガール』を発表。すべてハヤカワ文庫JAで入手可能。2010年10月現在はSFマガジン誌上にて、都市をまるごと覆う巨大楽器の秘密を追う、超特大総天然色活劇『零號琴』を絶賛連載中。
「清新であること、残酷であること、美しくあることだけは心がけたつもりだ。飛にとってSFとはそのような文芸だからである。」『グラン・ヴァカンス』ノートより。
象られた力 kaleidscape (ハヤカワ文庫 JA)グラン・ヴァカンス―廃園の天使〈1〉 (ハヤカワ文庫JA)ラギッド・ガール―廃園の天使〈2〉 (ハヤカワ文庫JA)


-テクノロジカル・ランドスケープ p393 p402
 直訳すれば「技術の風景」という意味であり、SF作家J・G・バラード(James Graham Ballard, 1930 - 2009)が『クラッシュ』『コンクリートの島』『ハイ・ライズ』の“コンクリート”三部作で提示した「科学技術によって構成された、新しい自然観」のことである。バラードはその著作で一貫して「人間の技術によって、地球上で未だかつて誰も経験したことのない人工の景観が出現したとき、人間の精神はそれをどのように受容し、どのような変貌を遂げるのか?」について描いている。
 作中では「Gödel」=Google、「GEB/黄金の永遠なる書棚/Gödelの縺れた書棚/Gödel Entangled Bookshelf」=Google ブックス、「LEBAB1.0」=Wikipediaや「Cassy」=Twitterなど、既存Webツールの強化発展型を彷彿とさせるガジェット/アイデアが人類にとってどのような影響を、あるいは「どのような現象」を生じさせるに至ったのかが描かれる。また「Gödel」は完全性定理及び不完全性定理連続体仮説に関する研究で知られる、チェコの数学者クルト・ゲーデル(Kurt Gödel, 1906-1978)からか。
 「丸そのものを描くのではなく、周りを塗りつぶすことで丸を描き出す小説」。
 『自生の夢』=動的な「無」へのアプローチ。


-『マインド・イーター(1984)』水見稜(MIZUMI ryou,1957-)p395
 重力の束縛を脱し、宇宙に活動の領域を広げ始めた人類は、同時にあまねく宇宙を徘徊する恐怖の存在を知った。彗星として知られる天体の多くは、実は現宇宙への底知れぬ「憎悪」が実体化したものであり、接触した人間の精神を食いちぎり、肉体を結晶の塊に変える怪物、マインド・イーターだった。この脅威に対し人類はハンターと呼ばれるエリートたちを宇宙へ送り、その破壊につとめるが……。「野生の夢」「おまえのしるし」などからなる傑作連作短篇集。

マインド・イーター (ハヤカワ文庫 JA 194)

マインド・イーター (ハヤカワ文庫 JA 194)

 タイトルの元ネタ。コーパスであるということ。


-『文字禍(1942)』中島敦(NAKAZIMA atushi,1909-1942)
 古代アッシリヤ、図書館で聞こえる謎の声の正体を探るうちに、老碩学ナブ・アヘ・エリバは、これは文字の霊のなせる業であろうと察しをつける。文字の霊がどんな性質を持つのかを調べていくうちに、彼はその恐るべき性質を突き止める。彼は文字の霊の及ぼす災いを王に進言するも認められず、最後には文字の霊の祟りで圧死してしまう……。

山月記・李陵 他九篇 (岩波文庫)

山月記・李陵 他九篇 (岩波文庫)

 忌字禍の元ネタとゲシュタルト崩壊から文字が線のつぎはぎであることを。


-『ミツバチのささやき(1973)』ビクトル・エリセ(Víctor Erice, 1940-)
 1940年代、スペイン内戦後の小さな村に、希望と夢を乗せて1本の映画がやってきた、その名は「フランケンシュタイン」。「フランケンシュタイン」を精霊と信じた主人公アナ・トレントは、村はずれの廃屋に精霊を探しに行くが、そこには負傷した脱走兵がいた……。天才子役アナ・トレントの輝き、圧倒的な映像美と詩的な映画世界で、非常に高い評価を得た監督長篇第一作。

ミツバチのささやき [DVD]

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 作品の構造と挿入されるイメージと「手紙」。またフランケンシュタインの怪物とアナの関係が間宮潤堂とアリス・ウォンの関係では。


-『白鯨(1851)』ハーマン・メルヴィル(Herman Melville,1819- 1891)
 19世紀のアメリカ東部の捕鯨基地・ナンタケットにやってきた主人公イシュメルは、捕鯨船ピークォド号に乗り込むことになった。船長のエイハブは、かつてモービー・ディックと渾名される白いマッコウクジラに片足を食いちぎられ鯨骨製の義足を装着していた。エイハブ船長の復讐心は、今や白鯨を完全な悪魔とみなすまでの狂気となっていた。多様な人種からなる乗組員たちはエイハブの狂気に感化され白鯨に対する報復を誓い、数年にわたる捜索の末、遂に日本近海の太平洋で白鯨を発見・追跡するが……。

白鯨 上 (岩波文庫)

白鯨 上 (岩波文庫)

 「他の先行作品に比べてこれだけ浮いているのはなぜか」、「第2の自然vs人類の構図として」、「人間が最適化してしまうことについて」、「クジラとSFについて」など一番盛り上がった話題でしたが、その点、なかなか納得することができず、これに関してはまた自分なりに考えていきたいと思います。飛先生から「むろん理由はあります(薄笑)。」とも言われてしまったので!


-伊藤計劃(Project-Itoh,1974- 2009)追悼小説
 間宮潤堂=John Doeネイキッド・スネーク(『メタルギアソリッド3』)=伊藤計劃
 1974年東京都生まれ。武蔵野美術大学映像科卒。2007年『虐殺器官』でデビュー。2008年人気ゲームのノベライズ『METAL GEAR SOLID GUNS OF THE PATRIOTS』に続き、オリジナル長篇第2作となる『ハーモニー 』を刊行。「he Indifference Engine」「From the Nothing, with Love.」の2中篇を発表した後、2009年3月20日肺癌により死去。
 p398「回りくどい手加減と韜晦が微苦笑をさそうけれども、奇怪な装飾を取り去ってみれば、リリカルで、いじらしい心象風景があきらかだ。そこにただよう孤独の感触が、まあたらしい寝床のひややかなシーツのようで、アリスは大好きだった。」
 p405「私の小説の語り手はひとつの例外もなく〈ぼく〉と〈わたし〉だけだった。」
 p416「死ぬの、早まったねえ」

ハーモニー (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)

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-用語解説
 オーバーレイ:層を重ね合わせて表示すること。
 偏在浸透型サービス群:造語。無線LANアクセスポイントが無数にある環境をより発展させた無償のWEBサービス群のことか。なお、どんなツールを使ってそれにアクセスしているのかが描写されていない。→血流の情報などについての言及があり、『ハーモニー』へのオマージュとしてのナノマシンに依ってか。
 リテラル:プログラムのソースコードにおいて、扱われるデータを一定期間記憶し必要なときに利用できるようにするために、データに固有の名前を与えたもの。値が固定されて変化しない数、定数のこと。
 カスケード:小滝が連続している様。
 ページランク:ウェブページの重要度を決定するためのアルゴリズムであり、検索エンジンGoogleにおいて、検索語に対する適切な結果を得るために用いられている中心的な技術。
 検索クエリ:検索クエリとは、検索の際にユーザーが入力する単語やフレーズのこと。
 パレンタル・ロック:年齢視聴制限。電子メディアにおいて子どもに悪影響を及ぼす可能性のあるサービスやコンテンツに対し、親が視聴・利用制限をかけること。そのための装置やソフトウェアの機能のこと。


-「第49回日本SF大会TOKON10における第41回星雲賞日本短編部門お礼の言葉」=飛浩隆による自作解題
 2009-08-08 - 題材不新鮮 SF作家 飛浩隆のweb録

 そしてこのレジュメそのものも、Webの情報を「つぎはぎ」して「読み出した」ものであることを明記しておきます。
 その他にも『羊たちの沈黙』や『耳なし芳一』などへのオマージュがあるのでは、とも。
 また印象に残った感想としては「非常にロマンチックなラスト(27歳女性)」というものがありました。おれもあの余韻は自分だけで取っておきたいなと思って自分からは話題にしませんでしたがw