- 作者: 伊藤計劃
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2010/12/08
- メディア: 文庫
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伊藤計劃(Project Itoh 1974-2009)
東京都生まれ。武蔵野美術大学美術学部映像科卒。Webディレクターのかたわら執筆した『虐殺器官』が2006年、第7回小松左京賞最終候補となり、08年《ハヤカワSFシリーズ Jコレクション》より刊行される。同作は『SFが読みたい! 2008年版』1位、月刊PLAYBOYミステリー大賞1位に、また『SFが読みたい!2010年版』では「ゼロ年代ベストSF30」にてベスト1に選出される。08年、以前より敬愛していたゲームディレクター小島秀夫のゲームソフト『METAL GEAR SOLID4 GUNS OF THE PATRIOTS』のノベライズを発表。08年暮には『ハーモニー』を《Jコレクション》より発表する。同書は第30回日本SF大賞、第40回星雲賞日本長編部門を受賞する。しかし09年3月、肺ガンのため死去。その後、10年3月に短篇やインタビュウ、映画評などをまとめた『伊藤計劃記録』が、11年3月にはBlogやコミックなどをまとめた『伊藤計劃記録:第弐位相』が発売される。なお、『ハーモニー』は10年にアメリカにて英訳版が出版され、11年4月フィリップ・K・ディック記念賞の特別賞を受賞した。
私は生前に一度、伊藤計劃氏にお目にかかったことがある。2007年10月20日の秋葉原だった。「ハヤカワ・ロボットSFセミナー YUKIKAZE VS Self-Reference ENGINE」というトークイベントがあった。私は神林長平氏と円城塔氏に会えることに完全に舞い上がっており、会場で黒ずくめの伊藤氏の姿を見た瞬間に『虐殺器官』を忘れたことをひどく悔やんだ。客席の隣の方が伊藤氏の友人という僥倖や、偶然持っていたSFマガジンが『虐殺器官』のスピンオフ短篇「The Indifference Engine」の掲載号ということもあって、あっさりとサインを頂くことができた。初見のファンに対してですら謙遜され、語り口も柔らかに神林氏や円城氏、飛浩隆氏について語られていた。ファンという視点を崩されないのだな、と思ったことを覚えている。私の「次回もミリタリーSFでいかれるのですか?」という的外れな問いに、伊藤氏は苦笑いされ「まだどうなるかわからない」と言葉を濁された。私はいま見ることのできるどんな写真よりも、その困ったような笑みをよく覚えている。後日、Blogの記事から好きな映画が同じだったことを知り、全く話ができなかったことを悔やんだのも、いい思い出だ。もちろん、これは個人的な思い出だ。ただ伊藤氏の作品に触れるたびにふと思い出してしまう、そういう記憶なのだ。
参考図書
伊藤計劃『虐殺器官(ハヤカワ文庫JA)』『METAL GEAR SOLID GUNS OF THE PATRIOTS (角川文庫)』『伊藤計劃記録』『伊藤計劃記録:第弐位相』、飛浩隆「自生の夢」『NOVA1(河出文庫)』収録、円城塔「バナナ剥きには最適の日々」『年刊日本SF傑作選 量子回廊(創元SF文庫)』収録、神林長平「いま集合的無意識を、」SFマガジン2011年8月号など。
今回、予約者は8人でしたが、当日の参加者は5人となりました。もしかしてこの会では一番少ない人数の回だったかもしれません。ただその点を差し引いても、あるいは少人数だからこそ、とても有意義な話ができたのではないかと思います。ある初参加の方が青春18切符でわざわざ遠くからやってきて下さったのも大変うれしいことでした。
おれ自身も再読し、「異様に同じ説明が繰り返される」ということや「ストーリーのおもしろさよりも、個々のエピソードやガジェットの先鋭的な部分に目がいくのだな」ということに気がつくことができました。また会では「透明度の高い語り」であることや「感情の欠落した/盛り上げることを排除した文章」ということ、そしてなにより「ハーモニクス後の世界はあのインフラ群がなければすぐにでも崩壊するかもしれない/人類は滅亡するかもしれない」という可能性を示唆されました。『ハーモニー』で描かれる世界が決して強固な世界ではなく、「その場しのぎの進化」ではないかという解釈はすごく刺激的でした。
さて次回の半杓亭で行う読書会は11月になる予定です。9月分は当初の予定を変更し、まったく別の、SF絡みのイベントを高遠ブックフェスティバルで行う予定です。ただいま出演交渉と称してSkypeで雑談をくり返しておりますが…w 詳細はまた後日。とにかく乞うご期待!でございます。