すべてはゼロから始めるために

小説家志望の雑記です。

『完璧な涙』神林長平

完璧な涙 (ハヤカワ文庫JA)

完璧な涙 (ハヤカワ文庫JA)

 生まれつき喜怒哀楽のあらゆる感情をもたない少年・宥現。現実社会に適応できない彼は、警備の職についた砂漠の遺跡発掘現場で、旅賊の女性・魔姫と出会う。だが、その時、発掘された戦闘機械が数百年の眠りから覚め、その場の人間すべてを殺戮する。以来、未来と過去が干渉しあう不思議な時空間で、宥現と殺戮機械の終わりなき戦い、そして、幾度とない魔姫との邂逅が繰り返されていく――宥現の感情の在りかはいずこに?

 神林長平強化月間第一弾。
 毎度思うし、恥ずかしい話なのだけれど、どんなに構造から神林長平の小説を読み解こうとしても、すくった砂みたいに言語化の網から零れ落ちていく。というか読めば立ち上がってくるのに、読み終わるとすこんと抜け落ちる感覚。なんなんだろう、本当に。つまり、わからないってこと。かっこつけて抽象で弄んでみた。
 この作品は円城塔が好きな作品としてあげていて11月の神林長平トリビュート本でもこの作品を選んだそうで、なにより彼は群像に送り、『虚構機関―年刊日本SF傑作選 (創元SF文庫)』に収録された「パリンプセストあるいは重ね書きされた八つの物語」のなかの「涙方程式始末」*1という掌編ですでにトリビュートしていると言えなくもないのだけれど、さて、では、円城塔がこの作品のどこに惹かれたかのか、あるいは巽孝之が解説で書いている「完璧なSF小説」とはいったいどういうことなのか、それを確かめるために読んだ。
 結論から言うとわからなかった。いま理解できないだけであって欲しいと思う。どうして理解できないのかについて考えてみたとき、なんとなくわかるのはここで描かれる未来世界や過去世界やさまざまな事象が何を意味しているのか、いかようにでも解釈できてしまうぐらいバリエーションと暗喩に富んでいるということだ。だからその意味ではとてもすばらしい異世界が描き出されている。それを追いかけるだけでいっぱいいっぱいになってしまったのだろう、ということだ。装備と体力を調えて再度挑戦したい、そういう作品になった。
 欠落を埋めることで、ほんとうのほんらいの人間/機械になる、ということ。感情の軸と時間の軸が同期するとき、完璧な涙が流れ出す。

*1:実はこれはKASUKAが見つけたことではなく教えていただいたことです。『虚構機関』→『完璧な涙』の順番で読んだので、最初に「涙方程式始末」を読んだ際にはわかりませんでした。