ブックスエコーロケーション

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伊藤悠『シュトヘル』

シュトヘル1 (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL)

シュトヘル1 (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL)

 13世紀初頭。史上最強と言われる蒙古軍から「悪霊(シュトヘル)」と恐れられた女戦士がいた――。かつては蒙古の脅威に怯える西夏国の一兵士に過ぎなかった彼女だが、数々の視線をくぐり抜け超人的な強さを手に入れる。一方、蒙古側の皇子・ユルールは敵方である西夏文字に魅せられ、その行く末を案じていた……伊藤悠が、人間の生と死を圧倒的筆致で描く超巨編。

 最初にあまり関係のない話を。リファラなのだけれどどうにもここ2ヶ月ほど、「シュトヘル」で検索をかけてきてくださっている方々がですね、PV数全体の7割近くにのぼっておりまして、いやこれはさすがに連載第一回の時のあんな感想ではまずかろうと思ったので、それなりにまじめに書いてみようかと思っている。
 で、さっそくこのマンガで伊藤悠がなにを描きたいのか、なのだけれどこれは第一話冒頭のシュトヘルになる前のウィソの台詞と、ユルールが守ろうとしているものからも明らかだ。
 文字と、文字によって伝えられないものを伝えるということ、だ。
 文字は、物語は書いた者が喪われたとしても遺る。言うまでもなくそれが文字の機能だ。
 そこに、彼が、あるいは彼女がいたということを伝えることができる。
 もちろん、これはシュトヘルとなったウィソの「伝えられないことば」を伝えるという動機をトリガーするための設定にすぎないのかもしれないのだけれど、さすがにただそれだけの扱いはないだろう、と思っている。
 あと、現代パートの意味としては須藤の人格がたまたまシュトヘルに、というわけではなくておそらく須藤の方にも過去篇、あるいは「伝えられないことば」にまつわるエピソードが用意して、だからこそシュトヘルに引き寄せられた、というのがあるのだろう、とは思うのだけれど……ちょっとストーリー構成は微妙かもしれない。
 シュトヘル単騎のアクションシーンに関していえば、つなぎのコマがないので、動作のはじめとおわりを描いて間を抜く、という感じで描かれてはいないのでわかりにくい。一枚絵のイラストとしてみると、確かにかっこいいのかもしれないけれど。そのわりに郡集戦はうまい。メルゲンの見せ方はかっこいい。