- 作者: 勝田文,佐藤多佳子
- 出版社/メーカー: 白泉社
- 発売日: 2007/04/27
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んで、後者は料理家のダメ男に恋をする、料理下手な豆腐屋の女の子のお話です。
この2作に共通するすごくびっくりした点があって、いやもちろん寡聞にして少女漫画を読んでこなかった人間ですから、こういう作風が実は少女漫画のコンテクストなかでムーブメントとして機能しているのかもしれません。だから、さも発見したように書くのは失礼なのかもしれないのですけれど、これはちょっと声高に叫んでもいいぐらい、おもしろい作品で、びっくりするような情景が描かれていました。
前者では、佐藤多佳子の腕なのでしょうが、「まったく関係のない五人」の人間が落語を軸に下町の主人公の家に通ってきます。少年がいじめられれば主人公が探し回り、プロ野球解説者が少年に野球を手ほどきします。そこで描かれるのは学校や会社といった別の枠組みの「社会」です。それを中心として物語があったかくやわらかく駆動していきます。絵のタッチのめりはりがキャラクターに色を添えて、ほんとうにせつなくあたたかい物語が表出しています。そしてなによりも特筆べきはそのやわらかいタッチで描かれる街の、下町の風景です。でもそれはおそらくやっぱりなのですけれど、そこにあるのは「楽園としての下町」です。もちろん作中では各個人の悩みが、決していい形で解決するわけではありません。エンターテイメントは終わりに向かって加速し、カタルシスを与えるものですがこれは決してハッピーエンドではないのですが、すごくいい意味でのオープンエンドです。
同様に、後者の『かわたれの街』*1の方では、主人公の家は商店街の、豆腐屋の娘で、やはりというか料理をモチーフに商店街の友人?大人?仲間?うーん適切な言葉が見つからないのだけれど、そのどれでもあってどれでもない関係性を軸に、物語が駆動しているのが、駆動させられているのがほんとうに不思議でした。そしてこれも前者と同様にハッピーエンドではないのだけれど、ほっとするようなオープンエンドでした。
それでも大筋に恋愛の要素を足してしまうのはやはりどうあっても仕方がないというか、人類最大の問題系だしなぁと。でもあったかくてやわらかくて「あればいいな、あったらいいな」と思わせる今では失われてしまっている空間の創出*2。それを素朴に信頼し、描き出せる力にはほんとうに感服でした。