ブックスエコーロケーション

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『ハル、ハル、ハル』

ハル、ハル、ハル

ハル、ハル、ハル

 3人のハルよ、世界を乗っ取れ。
 暴走する世界。
 疾走する少年と少女。
 この物語は全ての物語の続編だ。

 読了。三篇が収録。太字の使い方がずいぶんとわかりやすく上手になっている。あとダイジェストの方法=数を数える/犬の鳴き声/日記によって、かなり物語の展開が早く、中篇というか短篇へと圧縮されているのに、それでも物足りないと感じないのは、たぶん執拗な確認と繰り返しと、人生の一瞬の切り取りによるのではないのか。でもなぁあとがきで「世間との対決姿勢だ」ということを言っちゃってるからなぁ、読み取ったことがあんま書けないんだよなぁ、言い換えられはできるけどさ。では以下個別に。

◆ハル、ハル、ハル
 非常にキーワードのリンクがわかりやすい。解釈しやすい。大きな変化は具体的な性行為の描写か。名前のリンクから擬似家族の形成が行われ、それはエクソダスする。東京という世間と、常識と、通念と。車ってのは本当に偉大な力だね。

◆スローモーション
 日記による記述方法が、徐々に読者を想定したものによってただひとりに開かれた形式をまとう。不思議な速さを、まとう。逸脱のトリガーは、姪と甥の危機と、スローモーションという身体時間か。

◆8ドッグズ
 犬の鳴き声と数字によっていくらでも時間を割愛して物語が展開する。それでもそれが全然過不足なく進んでいると納得させられてしまうのは、『南総里見八犬伝』の挿入。歴史の挿入だ。それが熱をともなって、距離を提示して物語を駆動させる。

 さてあっさりとこの三篇の集約をしよう。
 それはなにか。
 うん、しがらみからの解放だ。あるものの、別の側面の提示だ。
 でも、登場人物は死なない。死にはしない。自殺はしない。
 作中で、過剰なまでの生命力を発揮して(発揮のトリガーはもちろんしがらみだ)、彼らは生き抜くことを選択する。もちろんそれはフィクションだから。そうして読者は、古川日出男の祈りに触れるのだ。