- 作者: 伊藤計劃
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2007/06
- メディア: 単行本
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9・11以降、激化の一途をたどる“テロとの戦い”は、サラエボが手製の核爆弾によって消滅した日を境に転機を迎えた。先進資本主義諸国は個人情報認証による厳格な管理体制を構築、社会からテロを一掃するが、いっぽう後進諸国では内戦や民族虐殺が凄まじい勢いで増加していた。その背後でつねに囁かれる謎の米国人ジョン・ポールの存在。アメリカ情報軍・特殊検索群i分遣隊のクラヴィス・シェパード大尉は、チェコ、インド、アフリカの地に、その影を追うが…。はたしてジョン・ポールの目的とは?そして大量殺戮を引き起こす“虐殺の器官”とは?―小松左京賞最終候補の近未来軍事諜報SF。
当然だし、たぶん仕方ないのだろうけれど、まず円城塔と比較する。
両方ともとてつもなくすごい。
けど、凄さの違いは明確だ。
円城塔『SRE』は「わけがわからんけど、なんか読み進めてしまう、うわわわあわすげー、どうやってこんなネタで小説を作ろうとしてんだろう、つうかどこから物語が始まってんのかわけわかんねぇー」って凄さ。得体の知れないものが加速度的に拡大していく、凄さ。イーガンやボルヘスを読んだ時のような感覚。手の届かないものに対する凄さ。
一方、伊藤計劃『虐殺器官』は「うひゃあああ、こうくる!? こういう設定の描写すんの!? つか、なんでおれはこんな簡単なことに気がつけなかったんだよくそー、先にやられた、くやしいくやしい」の凄さである。これはいうなれば冲方丁や賀東招二を読んだ時に近い。脱構築の粋を見せられたような、おれの手が届きそうだったのに逃してしまった、それをめちゃくちゃ丹精に、クールに描き出す凄さ。(なお虐殺器官は現代から攻殻機動隊の世界へと至る「空白の時代」を描き出した、というだけでもう満腹です)
では作品について、ときおり飛び出す言語SF的な思索が妙に、物語に、「軍事諜報SF」というメタルギアソリッドを活字化して小説として存分に楽しめる作品として構築されているにもかかわらず、すげぇ浮く。
と思って読み進めると…………脱帽ですorz。完敗です。
なんで……わからなかったんだろうと、っていう悔しさと、こういうオチを持ってくる手腕に完敗です。
ラストの一行を読んだ時の鳥肌は本物です。
うーんすごかった。もう一辺、今度はデティールを追いかけてみよう!