- 作者: 青山景
- 出版社/メーカー: 太田出版
- 発売日: 2009/08/04
- メディア: 単行本
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君が好きになったのは、――本当に<私>?
だから書かなくてはならない。知るために。
夜行列車で「過去」を書き続ける小説家・浜崎正。大学時代に出会った<町田ミカ>は、映画『Q9』のヒロイン・桐島すみれにそっくりで……。現実なのか、夢なのか。
雑誌『CONTINUE』での連載を経て、遂に待望の単行本化。
女の子が抜群にかわいい。つか、この表紙はとてもいいです。読書メーターでこのブログの右側に表示させておくだけではもったいないと思ったので、ひさしぶりに漫画にも言及してみる、というか、久しぶりに語ることのできる要素の多い漫画だったということなのかもしれない。このごろは漫画をただ、物語を消費するためだけにがしがし読んでいるので、ベタに楽しむことしかしていなくて、そういうことはTwitterや読書メーターで書くことで満足できていたのだけれど、やっぱりそれだけでは書き足りないな、とこの『ストロボライト』に対しては思ったのだ、ということをつらつら書いていても先に進まないのでこのあたりでエクスキューズはやめておく。あと、ネタばれするので気をつけてください。
この『ストロボライト』はとてもテクニカルな漫画だった。すごくメタ・フィクショナルで、きちんと青春漫画をやっていながら、きれいに着地している。そのうまさにすごくかちんと来る人もいるくらいきれいに着地していると思う。なんでもっとぶっ飛んだ方向にいかなかったんだ!と憤激してしまう人もいると思う。ここまで描けるのだから、と。
この漫画は入れ子構造を持っている。付き合っている彼女・町田ミカに、『Q9』というフェイバリット映画のヒロイン桐島すみれを重ねて見ている小説家志望の浜崎正が、その混同と狷介な自意識によって彼女と別れ、そして改めて彼女と出会いなおすために夜行列車に乗っている、という私小説を書いている小説家・浜崎正を、主人公にした漫画なのである。これをきちんと描いている。なかなか複雑で、たぶんこれで合っていると思うのだけれど、違っていたらごめんなさい。
重ねて言えば「小説的な省略」*1の使い方が抜群に巧い。テンポがいいのだ。さくさく進む。あと、随所に作中映画のシーンが挿入されて、前後のコマのつながりがほとんどないのだけれど、そこで何が行われており、作中映画がどんな暗喩を持っているのか、などがすぐにわかるように提示されている。小説家・浜崎正は提示することができるから、どんどん挿入してくる。ただ直接的な影響があるわけではなくて、あくまで暗喩として提示されるだけだ。その境界が侵食されることはない。が、関連があるように提示されて関係があるように演出される。とても稠密にシーンが選び抜かれている。小説家・浜崎正によって。この、現在書かれている私小説であるということが漫画の後半、夜行列車内で、現在の彼女=コミットできるようになった現実の比喩との会話からわかることになる。という漫画なのである。
以上のような構造に、ついつい目を奪われがちなのだけれど、この作品の本当におもしろいと思えるところは、ストレートな青春漫画であるということなのだ。銀杏BOYZほどには熱くDT臭くなく、浅野いにおほどに拙くもあざとくもない、絶妙なバランス感覚で描かれるということだ。本来ならただたただ痛々しいだけの青春漫画のストレートさも、上記のメタ構造によってきちんと脱臭されている/客観視されている、ということに起因するのだと思う。
だから正直なところ、KASUKAはこの漫画に感情は動かされなかった。めちゃくちゃうまいなぁすごいなぁという書き手側の、メタな視点で感嘆した。ベタな部分での何も残らなさ具合がけっこう不気味で、この不気味さはちゃんと書き残しておくべきなのだと思ったのだ。最初は、このバランス感覚と過去の彼女との出会い直しという構造からTAGROの『マフィアとルアー』に似ているとも思ったのだけれど、まだ彼のほうがなんぼも情緒的な描き方をしていて、読者の感情をどうにかしてやろうという部分が見える。ああそうか、青山景はなんかひどく達観している漫画家なのかもしれないな。恐いくらい力みがないんだよ、この漫画。
ってこの人、青山景って人、舞城王太郎の『ピコーン!』を漫画にしとる人やん! と訛ってしまうぐらいびっくりした。そかそか、だからなんか作中の小説は舞城っぽいなぁと思ったのかw
- 作者: TAGRO
- 出版社/メーカー: スタジオDNA
- 発売日: 2002/04
- メディア: コミック
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- 作者: 舞城王太郎
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2006/02/16
- メディア: 文庫
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*1:「わたしたちは出会って、生まれた子どもはとても大きくなった。」というような時間の省略のことである。本来なら句点の間にあるはずのものを省略することができる、ということだ。