すべてはゼロから始めるために

小説家志望の雑記です。

『沖で待つ』絲山秋子

沖で待つ (文春文庫)

沖で待つ (文春文庫)

 不意に女性作家の書いたものを読みたくなるときがあって、去年の半ばぐらいに出ている文庫をがっと買って一気に読んだことがあった。たぶんそのときは人とのコミュニケーションに飢えていて、いまの自分の生活と地続きの世界の中で行われている人々のいろいろを読みたくなったんだと思うし、確かにそういう期待に答えてくれる作家だったし、作品群だった。サービス精神旺盛の人だから、ジュンブンガクではなくて「小説」を読んだように、でもエネルギーを使うのではなくて、エネルギーを補給してくれるようなそういう小説の書き手だと認識している。
 で、『沖で待つ』は芥川賞を受賞した表題作をはじめ、3作の短編集だ。薄くて値段も手ごろで行間も広い。以下3作を個別に。

 いちばんおもしろかったし、なによりおれが絲山秋子に期待していることを過不足なく描いてくれた。見合い相手のあらゆる意味での醜さが痛快を通り越して滑稽に写るっているにもかかわらず、それでも主人公の意固地な憤激をきちんと地に足つけて、説得力を持って描けているのがよかった。
 でもこれで書きたかったのはきっと後輩との飲み会の席の乱暴な会話。すごくよかった。

 表題作。「先に死んだ方のパソコンのHDDを、後に残ったやつが破壊するのさ」という協約がすごくいい、と思ったのだけれど、その場面そのものを劇的に描くのではなかったのでちょっと拍子抜け。ただやっぱりこれもこの協約そのものが伏線だったんだよねぇ、と。だからむしろクライマックスは詩があかされるところなんだろうなぁ。ただやっぱり幽霊の登場は説明のしすぎだと思うんだ。

  • みなみのしまのぶんたろう

 こういう底意地の悪さが好き。でもそれをすがすがしく転換してみせるのはさすがだなぁと。でもひらがなは読みにくい。