ブックスエコーロケーション

「SFとボクらの場所」をテーマにした本屋のブログです。実店舗はありません。開業準備中。

神山健治『ひるね姫』

 神山健治監督・脚本の『ひるね姫』を見てきましたよ。舞台は、なんと地元の岡山ということでいそいそと見てまいりました。ぼくは『攻殻機動隊SAC』と『東のエデン』は一通り見ていますが決していいファンではないということを先に断っておきます。
 まずはストーリーをざっくりと。

岡山県倉敷市児島、瀬戸大橋のたもとののどかな町で、無愛想な自動車整備士父親と二人暮らしをしている平凡な女子高生の森川ココネ。得意技は昼寝で、いつも昼寝ばかりしている彼女だったが、最近、不思議なことに同じ夢ばかり見る。そして2020年、東京オリンピックの3日前に突然父親が警察に逮捕され東京に連行される。悪事を働いたとは思えないココネは、父親逮捕の謎を自力で解決しようと、幼馴じみの大学生モリオを連れて東京に向かう。その途中、彼女はいつも自分が見ている夢にこそ、この謎を解決する鍵があることに気づき、夢とリアルをまたいだ不思議な旅に出る――。映画「ひるね姫 ~知らないワタシの物語~」オフィシャルサイト 神山健治監督初の劇場オリジナルアニメーション!

 とても現代的でかわいい女の子が地元の方言をしゃべっているだけでなんだかほっこりしますし、瀬戸内の風景は、至近未来とはいえ、いまそこにある一瞬を切り取ってあり、とてもぐっとくるものがありました。ストーリーも動きのある活劇を、夢のシーンに持ってくることで飽きることなく見られました。エンジンヘッドとかハーツの変形とかそういうメカメカしい部分もとてもよかったと思います。冒頭の空港での逃走劇の動きや、クライマックスでココネが走るシーンが、好きですね。動きのあるシーンを自分の視覚の解像度に合ったように見られる気がするのが、アニメのおもしろいところだなと改めて思いました。マクガフィンタブレットなんですが、タブレットだけあってアクティブに機能するあたり、おもしろいなと思いました。あと新幹線を降りたシーンで白鳥哲さんが出ていたのが、声を聞いた瞬間すぐにわかってすごくうれしくなったのはなんとも自分でも笑ってしまいましたね。ストーリーも、決して悪いわけではない父と娘、そして母の関係を再構築していく話として、感情の流れはきれいにハマっていたと思います。ハートフルファンタジーというのがしっくりくる感じでしたね~。

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2月のまとめ

読んだ本の数:6冊
読んだページ数:1319ページ

■ハーモニー(2) (角川コミックス・エース)
 今回もすばらしかった。原作の要素をきちっと拾いつつ、『虐殺器官』への目配せもあり、原作では描ききれていなかったガジェットの描き込みやトァンの表情の変化(化粧でごまかすところが最高)など、まさに完全版の名にふさわしい『ハーモニー』だ。読了日:2月27日 著者:三巷文


成功者K

成功者K

■成功者K
読了日:2月22日 著者:羽田圭介


SFが読みたい! 2017年版

SFが読みたい! 2017年版

SFが読みたい! 2017年版
 今年はひじょうに表紙が強い。珍しいことに海外の1位は読めてた。読了日:2月15日 著者:S‐Fマガジン編集部


淡島百景 1

淡島百景 1

淡島百景 1
 きらきらしたものの、その代わりを描くことでぼんやりと中心が見えてくる。世代をまたいで描かれることもまたそれに重みを追加している。読了日:2月8日 著者:志村貴子


■火を熾す (柴田元幸翻訳叢書―ジャック・ロンドン)
 最後の短篇にあるように「生への執着」が大きくストーリーを駆動させるモチーフになっていて、こういうサバイバルだけで読ませる短篇にしてしまえるのはさすがだなと思った。ボクシングものがあるのもきっとそこにつながるのだろう。ちょっと奇想っぽいものもラストの放っておかれ具合が絶妙だなと思った。読了日:2月6日 著者:ジャック・ロンドン


溺れた巨人 (創元SF文庫)

溺れた巨人 (創元SF文庫)

■溺れた巨人 (創元SF文庫)
 もともと読むのが早い方ではないのだけれど、これは本当に時間がかかった。病的な妄執に囚われる人物が描かれることが多いのだけれどそれが辛かったのかなぁ。よかったのは「溺れた巨人」「スクリーンゲーム」か。読了日:2月5日 著者:J.G.バラード

まつもと演劇工場連動企画 宮澤賢治ビブリオバトル

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 今回お誘いいただいて半杓亭でのビブリオバトルに参加してきました。
 結果、なんとチャンプ本に選ばれました~。ありがとうございました。
 飛び道具すぎて選ばれるとは思っていないかったので、めちゃくちゃ挙動不審になっていたと思います。もっと素直に喜んだりお礼を言えたらよかったですね。うーん、なかなかむつかしい。
 でもほんと選んだ本の力だなぁと思ってます。なので、どんな感じで語ったのか。その説明のもとにした原稿を公開しようと思います。この通り話したわけではないですが大筋でこんな感じでした。

こんにちは、やつはみ喫茶読書会の主宰をやっています。ビブリオバトル、実はそんなに得意ではないのですが、一生懸命やらせていただきます。よろしくお願いします。
にしても、さすがに演劇をやっておられる方々はしゃべりが上手ですね、さいごというのはこう、緊張が高まって一周回ってふわふわしてしまいますね。ここまできたらなにをしゃべってもしょうがないというか。
さて、今日そんなふわふわした感じで紹介するのが、これです。
『ミヤザワケンジ・グレーテストヒッツ』です。
そう宮澤賢治の本そのものではなく、トリビュート本です。高橋源一郎という作家が書いた小説です。
トリビュート、おわかりですかね。音楽ではよくあるやつですよね。
なので、この本も24篇の短篇が収録されているんですが、音楽になぞらえてかA面とB面があります。
収録タイトルは、「注文の多い料理店」、「セロ弾きのゴーシュ」、さきにとりあげられた「オッベルとゾウ」などなど聞いたことのあるものがいっぱいあります。
ただ音楽になぞらえて言えばこの本に収録されている小説はコピーでもなければ、カバーでもありません。原作を継ぎ接ぎししたマッシュアップとも異なります。オリジナルです。完璧に。紛れもなくオリジナルです。唯一タイトルが同じだけ。そう同じ題名でありながらまったく別の作品になっています。であるにもかかわらず確かに宮澤賢治を感じるんです。そこがすごいし、おもしろいところなんです。
なかでもとくに好きな一篇は「永訣の朝」です。
もとになった「永訣の朝」は宮澤賢治の妹が亡くなる日をモチーフにしたと言われる一篇ですね。
けふのうちに
とほくへいってしまふわたくしのいもうとよ
みぞれがふっておもてはへんにあかるいのだ

では、高橋源一郎は同じ題名でどんな小説を書いたのか。
あるバーで朗読会が開かれます。ただそのバーで行われる朗読会には、演者がいません。朗読するひとはやってきたお客さんなんです。やってきたお客さんが即興で「シ」を読みます。あるお客は人生に疲れ切っており飛び降り自殺を示唆します。ある少女は自分が学校でも家庭でも透明であり限界であることを読みます。さらにそこのマスターは寝る前にいつも死ぬ瞬間の情景をさまざまに思い描く人物であったりします。そうです、この物語で語られる「シ」は「詩(ポエム)」であり「死(デス)」でもあるんですね。
そしてそれは、本来の「永訣の朝」に通じてきます。
妹の死を通じて描かれる詩です。
生きて死ぬことをどのように捉えるのか、両方ともそのことについて書かれた作品であるなと思いました。
実際いま日常を生きていくうえではそんなことをあまり考えることなく生きていくことができます。
ですが、この小説、あるいは原作となった詩を読むことであたかも自分のことのように考える、そういう契機になる作品です。おすすめです。

 どうでしょうか、読みたくなったでしょうか。
 下の画像は当日のお茶とお菓子でした~。かわーいー。
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