今日発表があり、拙作が第23回電撃大賞の電撃小説大賞の1次選考を通過した。1次を通過するのは3年ぶり3回目か。 今回は小説作品の応募総数が4878で、そのうち1次通過が661、内訳は長編が536作品、短編125作品とのこと。せめて前回よりもいいものを書く、ということでやってきたわけなので、ひとつ結果が出てほっとしている。多くの人に手助けしてもらった作品なのでよけいに。例年通りであれば2次の発表は8月だ。それまでわくわくして暮らせるのはありがたいことだ、と書いてて思ったが最近はSFの仕事ができているのでけっこう充実しているのだった。あ、でも、評価シートは楽しみだなぁ。
宮内悠介『彼女がエスパーだったころ』
- 作者: 宮内悠介
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2016/04/20
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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ぼく自身、非難されないことを目的にずっと科学リテラシーを鍛えてきたところがあるので、例えば、下記のようなツイートを見かけたときも、そうだよなぁと思えるし、ふぁぼってリツイートのひとつもしたくなる。
疑似科学と陰謀論とオカルトが親和性高いのは、どれも「地道な努力の積み重ねを要さずに世界観を転倒させるだけで他人より優位に立てる方法」、つまりルサンチマンの発露だから。いくら批判者が「正しい知識を」と言っても、その「正しい」秩序の中では彼らはヒーローになれない
— スドー (@stdaux) 2016年7月6日
だが、宮内悠介は今作で疑似科学をただ揶揄することにとどめず、観察者たる主人公をその役割から逸脱させていく。そこには、ぼくもそうなる可能性があり、そもそもすでにそうなっているかもしれない、弱者によりそおうとする姿勢が描かれているように思った。同時に、そのむつかしさも。
『ヨハネスブルグの天使たち』、『エクソダス症候群』、「半地下」、『アメリカ最後の実験』、そして今作『彼女がエスパーだったころ』を通して、痛みを知る人の持つやさしさと、誠実さを感じている。これからも追いかけて行こうと思っている。
余談ではあるが、だからこそこのような分析もできるのかなとも思った。
安倍首相がなぜこう強いのか、自分なりに考えてみた。メディアへの根回しとか、第一次政権での失敗の教訓とか、いろいろあると思う。でも一言、「出来の悪い人の気持ちがわかっている」(少なくともそう見える)――これに尽きると思う。そしてそれは、インテリリベラルにはけっして真似できないとも。
— 宮内悠介 (@chocolatechnica) 2016年7月6日
首相の言は、インテリリベラルからすれば、軍国主義的で、勇ましいばかりで具体性を欠くように聞こえる。でも、また別の視点からは、「自分たちの場所まで降りてきてくれた」ように見える。そう感じるのは、これまで疎外されてきた人たちだ。「B層の取り込み」といった戦略論を超えた何かがあるのだ。
— 宮内悠介 (@chocolatechnica) 2016年7月6日
なぜ、社会的弱者のうち少なくない層が、格差を広げる首相を支持するのか。権力との同化の願望か。ストックホルム症候群か。違う。馬鹿と呼ばれ、社会から疎外された思いは、渇きは、何にも勝る。「わかるように話してくれる人」は、それだけで恵みたりえるのだ。
— 宮内悠介 (@chocolatechnica) 2016年7月6日
政治的な立場が逆だと見えなくなるものがある。たとえば、リベラル層は安倍首相の言にエモーションを喚起されない。保守層が三宅洋平にエモーションを喚起されないように。けれど、両者はある意味で、同じ層から支持される。馬鹿と呼ばれ、疎外されてきた層から。
— 宮内悠介 (@chocolatechnica) 2016年7月6日
ゴアはけっしてブッシュに勝てない。いや、言ってしまおう。ゴアは、IQが高いというだけで、ある層からすれば、敵であり、搾取する側なのだ。そう考えると、トランプもけっこう有利だ。そんなわけだから、安倍首相の真のライバルは誰かと考えると、それは山本太郎であり、三宅洋平なのだと思う。
— 宮内悠介 (@chocolatechnica) 2016年7月6日
6月のまとめ
読んだ本の数:15冊
- 作者: 宮内悠介
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2016/01/29
- メディア: 単行本
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すごくいい小説だった。アメリカと音楽と民族と、新しいテクノロジー。このバランスの良さと、傷ついた人々によりそう作者の眼差しがすごく心地よい。類型に当てはめづらいことも、実はポイントだと思う。でも、この小説は歴史がちゃんと備わっているから、孤立している印象とはほど遠いのだなぁ。作者の別作品にあった「文化的な孤児」という言葉を思い出した。そしてそのことを感じるのは決してぼくだけではないとも。サスペンスでひっぱる構造と「実験」という部分がすごくオースターっぽかったなとも。読了日:6月30日 著者:宮内悠介
■恋は光1~4 (ヤングジャンプコミックス)
すごくおもしろかった。主人公は「恋をしている女性が光って見える」という現象に悩まされており、そのことが原因となって一筋縄ではいかない恋愛をすることになる。ストーリーと設定の活かし方が絶妙で、かつ恋愛の胸がぎゅっとなる感覚を見事に描いているように思った。あとおそらく――北代が光って見えないのは現象が始まる前からの付き合いだったから、ではないかなと予想しておこう。読了日:6月28日 著者:秋枝
- 作者: 木尾士目
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2016/06/23
- メディア: コミック
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うおおい、ここで次巻なのか!笑 でもスーがかわいかったのでよかったな。さあさあ斑目よ、もう待ったなしですよ!笑 読了日:6月24日 著者:木尾士目
- 作者: 山内マリコ
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2015/10/22
- メディア: 文庫
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選択肢のなさを痛感させられる閉塞した地方と、そこで生きざるを得ない若者を描くことに定評のある作者の第2作。ただ今作は「少女ギャング団」というモチーフによって、閉塞した世界のなかで、すごく鮮やかで、いい意味で浮ついたフィクション感を獲得することに成功している。なにより「少女ギャング団」のシステムがとても現代的で、なのにそこにあるのは祈りであり、普遍的な愛の表出なのだ。いや、にしてもスクールカースト持ち上がり大人ってのは想像するだにつらそうだ。そのことだけは、移動でリセットしてしまってる現状も悪くないのかな? 読了日:6月24日 著者:山内マリコ
- 作者: 結城充考
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2016/06/16
- メディア: 単行本
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クロハ・シリーズ最新作、続きが気になり一息に読んだ。殺人事件を指標する拡張現実を利用したオンライン位置情報ゲームと、警察署内の不正会計問題。大きくふたつの事件が進行する渦中にクロハはまきこまれ、迷い、自ら踏み込んでいく。「潔癖症」であり「善意と覚悟」のあるクロハはあいかわらずかっこいい。その一方でクロハが、サトウやカガやシイナ、キリと会話してるときの安心感は、シリーズを読んできた人にはたまらないだろう。読了後、タイトルに込められた意味を理解する。読了日:6月22日 著者:結城充考
- 作者: 酉島伝法
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2015/07/21
- メディア: 文庫
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すごいSF小説を読んだ。重層さにくらくらしてだんだんと病みつきになっていく。表題作はデビュー短篇で読んでいたのだけれど、本作で長篇になり背景情報がかなり追加されている。挿絵も。漢字遣いとバラエティに富んだストーリーが読ませる。特に好きなのは昆虫型人類の探偵小説「泥海の浮き城」だ。解説もぼんやり感じていた背景情報がより明確になり、「ああそういうことか!」となる楽しさがあった。「人類にはまだ早い系作家」を堪能しました。読了日:6月21日 著者:酉島伝法
デストロ246 7 イラストカード付き限定版 (サンデーGXコミックス)
- 作者: 高橋慶太郎
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2016/06/17
- メディア: 単行本
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最終巻。伊万里が持っていかれたことによって物語はスタートに戻る。なるほど。特典、画集かと思いきやポストカードセット。読了日:6月21日 著者:高橋慶太郎
- 作者: 藤井太洋
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2014/02/21
- メディア: 単行本
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スペーステザーによる軌道テロを防ぐために、スペシャリストの奮闘が描かれるテクノスリラー。諜報ものとしてもSFとしても申し分なく、とてもおもしろかった。ぐいぐい読ませる。さらにラストのスタバ1号店のシーンは、ロマンティックな部分を忘れない目配せもよかった。あともしかして中国製の無人機の設定は作者の別短篇「公正的戦闘規範」につながっている? 読了日:6月14日 著者:藤井太洋
TYPE-MOONエースVOL.11 (カドカワムック 636)
- 作者: TYPE-MOON
- 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
- 発売日: 2016/04/15
- メディア: ムック
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ジンクスの項でけっこうみんな信じてるものがあってびっくりした。ゲン担ぎっていうのはいまだに現役なのなー。読了日:6月14日
- 作者: 米代恭
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2016/06/10
- メディア: コミック
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クラゲ状の異星体に侵略された日本は地上と地下に居住区をわけて生活している。異星体に対するのは「修繕」を受けられる特殊部隊。そのエースである先輩に、屈折した恋心を抱える女の子が主人公。不器用な恋心の描写と背景世界の不穏さがラストでリンクするのは見事か。読了日:6月11日 著者:米代恭
- 作者: ウィリアム・ギブスン,浅倉久志
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 1987/05/15
- メディア: 文庫
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サイバーパンクの短篇集。序文からカッコいい。テクノロジーによって拡張された人々の営みと猥雑さと夢と失墜と。特に「ガーンズバック連続体」「辺境」「赤い星、冬の軌道」がよかった。ただ寂寥さだと「ドッグファイト」と「クローム襲撃」が群を抜いている。余韻がすごい。なお復刊によって出回るようになった旧版で読了。読了日:6月9日 著者:ウィリアム・ギブスン
- 作者: 平野耕太
- 出版社/メーカー: 少年画報社
- 発売日: 2016/06/06
- メディア: コミック
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大きな戦さのための下準備の伏線巻。関ヶ原の合戦→廃城という流れなのかな。にしても連載でぐっときた「二航戦だ」はここで読んでもぐっとくるなぁ。読了日:6月7日 著者:平野耕太