ブックスエコーロケーション

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クエンティン・タランティーノ『ジャンゴ 繋がれざる者(2013)』

 ディープサウス。解放奴隷のジャンゴ(ジェイミー・フォックス)がドイツ系賞金稼ぎのドクター・キング・シュルツ(クリストフ・ヴァルツ)と共に、サディスティックでフランスかぶれの農場主カルヴィン・キャンディ(レオナルド・ディカプリオ)に立ち向かい、奪われた妻のブルームヒルダ(ケリー・ワシントン)を救おうとするのだった……。

 タランティーノがマカロニ・ウェスタンというジャンル映画を使ってまっこうから描いたアメリカの奴隷制度、でもエンターテイメントの心は決して忘れない傑作映画でした。
 実はレオナルド・ディカプリオはあんなに極悪奴隷商人なんだけれど作中で人を殺していない。にもかかわらず極悪人に見えるという。圧倒的な不安定さと底しれない恐さがあり、すばらしい演技だった。というかどこか優しさがある。ただその優しさが奴隷制度というシステムの上でのものでしかないので、いまのわれわれにはとても悲惨に映る、ということなのかもなと思った。
 全体的に英語ができないおれにでもわかる英語で会話がなされていた。わからない単語が出てくるとおれと同様にジャンゴがその意味を訊き返すのですごく丁寧。言うなればこの映画はそういう人たちを対象にした映画なのかなと思った。
ジャンル映画好きで、そういう人たちに向けて、そこできっと今でも根強く残る黒人差別とその背景にあるものを浮き彫りにしつつ、でも決してエンターテイメントとしての正道を外すことなく*1すばらしいバランス感覚で見事にマカロニ・ウェスタンを描き直してみせたんじゃないかなぁ、と。
 この見事なバランス感覚がなんというか、今までのタランティーノの作品、ーートンがっていて、とてもいびつで、でもだからこそ熱量もハンパなくかっこよかった今までの映画にくらべて、テーマ的にとてもストレートでまっとうな、でもすばらしくかっこいいジャンル映画に仕上がっているように思ったのでした。おすすめです。

*1:悪人は白人だろうが黒人だろうが極悪人で、すべて死ぬ。慈悲はない。ジャンゴは見事な早撃ち!「イヤーッ!!」「グワーッ!!」タランティーノは爆発四散!