持衰もの*1と「わたしたちの頭骨の外にある宇宙は、人間になど無関心だ」*2の対比からその先にあるものを描こうとしている、王道の純文学。どっしりしっかりした構造、なのだけれど、ブログの記事を見ていてもそうなのだけれど、この人はほんとうに耳がいいんだろうな。気の利いた比喩ではなくて、言葉の連なりではっとさせられるような文章が多くてくらくらした。言語に対する嗅覚が鋭いんだろうな。だから、どうしたって暗くなりすぎずにすらすら読めた。おもしろかった。徹夜一気読みだった。
中学生の主人公「僕」は斜視のためにクラスメイトからいじめられており、女子からいじめられている持衰ヒロイン「コジマ」との交流を通して「わたしたちは、ちゃんと意味のあることをしている」というかたちが丹念に描かれていくのだけれど、いじめグループのひとり「百瀬」から「地獄があるとしたらここだし、天国があるとしたらそれはここだよ。ここがすべてだ」と論破されてしまう。この対比を善悪で語っていた人がいたのだけれど、もちろんこれはそういうことで括ってしまえるようなことが書きたかったわけじゃないと思う。恥ずかしながらそれは、持衰ものの引用先に書いてあった。「向き合う」方法。書きたかったのは、たぶんそういうこと。だから結末はしっかり描かれる。最初があって過程があって最後がある。この流れでしか表現できないものが、ちゃんと存在する、そういう小説だった。
「僕は忘れるんですか」
「忘れるさ」と医者は笑った。
「忘れたことに気がつかないくらい、完璧に忘れると思うよ」
医者はそう言うと、自分の鼻を指さきでさすって笑った。
「でもまあ、わたしはこれ、忘れてないけどね」
僕たちは笑った。
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*1:http://d.hatena.ne.jp/Projectitoh/20080810#p2
*2:グレッグ・イーガン「銀炎」