ブックスエコーロケーション

「SFとボクらの場所」をテーマにした本屋のブログです。実店舗はありません。開業準備中。

まつもと演劇工場連動企画 宮澤賢治ビブリオバトル

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 今回お誘いいただいて半杓亭でのビブリオバトルに参加してきました。
 結果、なんとチャンプ本に選ばれました~。ありがとうございました。
 飛び道具すぎて選ばれるとは思っていないかったので、めちゃくちゃ挙動不審になっていたと思います。もっと素直に喜んだりお礼を言えたらよかったですね。うーん、なかなかむつかしい。
 でもほんと選んだ本の力だなぁと思ってます。なので、どんな感じで語ったのか。その説明のもとにした原稿を公開しようと思います。この通り話したわけではないですが大筋でこんな感じでした。

こんにちは、やつはみ喫茶読書会の主宰をやっています。ビブリオバトル、実はそんなに得意ではないのですが、一生懸命やらせていただきます。よろしくお願いします。
にしても、さすがに演劇をやっておられる方々はしゃべりが上手ですね、さいごというのはこう、緊張が高まって一周回ってふわふわしてしまいますね。ここまできたらなにをしゃべってもしょうがないというか。
さて、今日そんなふわふわした感じで紹介するのが、これです。
『ミヤザワケンジ・グレーテストヒッツ』です。
そう宮澤賢治の本そのものではなく、トリビュート本です。高橋源一郎という作家が書いた小説です。
トリビュート、おわかりですかね。音楽ではよくあるやつですよね。
なので、この本も24篇の短篇が収録されているんですが、音楽になぞらえてかA面とB面があります。
収録タイトルは、「注文の多い料理店」、「セロ弾きのゴーシュ」、さきにとりあげられた「オッベルとゾウ」などなど聞いたことのあるものがいっぱいあります。
ただ音楽になぞらえて言えばこの本に収録されている小説はコピーでもなければ、カバーでもありません。原作を継ぎ接ぎししたマッシュアップとも異なります。オリジナルです。完璧に。紛れもなくオリジナルです。唯一タイトルが同じだけ。そう同じ題名でありながらまったく別の作品になっています。であるにもかかわらず確かに宮澤賢治を感じるんです。そこがすごいし、おもしろいところなんです。
なかでもとくに好きな一篇は「永訣の朝」です。
もとになった「永訣の朝」は宮澤賢治の妹が亡くなる日をモチーフにしたと言われる一篇ですね。
けふのうちに
とほくへいってしまふわたくしのいもうとよ
みぞれがふっておもてはへんにあかるいのだ

では、高橋源一郎は同じ題名でどんな小説を書いたのか。
あるバーで朗読会が開かれます。ただそのバーで行われる朗読会には、演者がいません。朗読するひとはやってきたお客さんなんです。やってきたお客さんが即興で「シ」を読みます。あるお客は人生に疲れ切っており飛び降り自殺を示唆します。ある少女は自分が学校でも家庭でも透明であり限界であることを読みます。さらにそこのマスターは寝る前にいつも死ぬ瞬間の情景をさまざまに思い描く人物であったりします。そうです、この物語で語られる「シ」は「詩(ポエム)」であり「死(デス)」でもあるんですね。
そしてそれは、本来の「永訣の朝」に通じてきます。
妹の死を通じて描かれる詩です。
生きて死ぬことをどのように捉えるのか、両方ともそのことについて書かれた作品であるなと思いました。
実際いま日常を生きていくうえではそんなことをあまり考えることなく生きていくことができます。
ですが、この小説、あるいは原作となった詩を読むことであたかも自分のことのように考える、そういう契機になる作品です。おすすめです。

 どうでしょうか、読みたくなったでしょうか。
 下の画像は当日のお茶とお菓子でした~。かわーいー。
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1月のまとめ

読んだ本の数:5冊
読んだページ数:1157ページ

断片的なものの社会学

断片的なものの社会学

■断片的なものの社会学
 すごくよかった。あまりに断片的なエピソードがとにかく小説的なエッセイだった。読書中に著者の別作品が芥川賞候補にあがっていたのも思わず納得してしまう。描かれるテーマは「解呪」であるように思った。読了日:1月30日 著者:岸政彦


カブールの園

カブールの園

■カブールの園
 くうー「カブールの園」、めちゃくちゃカッコいい。現代SFにしてアメリカ文学のカッコよさ、そして「半地下」に見られた自伝的要素が変奏され、ほんとうにうまく絡みあっている。特にラストのプレゼンのくだりがたまらなくカッコいい! 単にマイノリティ文学と言ってしまうと取りこぼしてしまうものがいっぱいある豊かさがほんとうに素晴らしい。これは、大好きな小説だ。読了日:1月8日 著者:宮内悠介


本屋さんのダイアナ (新潮文庫)

本屋さんのダイアナ (新潮文庫)

本屋さんのダイアナ (新潮文庫)
 読書会用。めっちゃ面白かった!いやーよかった!読めてよかった!構成が巧みだから、彩子の積み上げてきたものを崩すところとかノワールかってぐらいエグいし、そこからの解呪がまたよくてよくて。いやーほんといい小説だ。一方で読んでいる最中に自分のなかの偏見とかそういうのをきりりと突きつけられるのもまた、よい少女小説っていうことなのかなって。うん、大好きな1冊ですね。姪が大きくなったら勧めたいw 読了日:1月8日 著者:柚木麻子


Fate/Grand Order material III

Fate/Grand Order material III

Fate/Grand Order material III
Fate/Accel Zero Order」イベントまでの登場サーヴァントが掲載されている。読了日:1月6日 著者:TYPE-MOON


雪と珊瑚と (角川文庫)

雪と珊瑚と (角川文庫)

■雪と珊瑚と
 まだ人間的に幼い珊瑚と、その娘の雪の、成長譚。梨木香歩に特有の、スピリチュアルめいたところがより具体的な信仰と食事のふたつに振り分けられているので比較的、読みやすかったように思う。というかすごく読みやすかった。ただ明確なストーリーはあるものの、珊瑚と雪の行末は開かれたかたちで終わっている。これはまだ彼女たちの人生は続いていく、ということなのだろうなぁ。読了日:1月3日 著者:梨木香歩

やつはみ喫茶読書会四十二冊目『本屋さんのダイアナ』

本屋さんのダイアナ(新潮文庫)

本屋さんのダイアナ(新潮文庫)

 やつはみ喫茶読書会四十二冊目 柚木麻子『本屋さんのダイアナ』@半杓亭
 2017/01/28(土)開場15:00 開始15:30 終了18:00*1
 課題図書:柚木麻子『本屋さんのダイアナ新潮文庫
 作品内容:私の名は、大穴(ダイアナ)。おかしな名前も、キャバクラ勤めの母が染めた金髪も、はしばみ色の瞳も大嫌い。けれど、小学三年生で出会った彩子がそのすべてを褒めてくれた――。正反対の二人だったが、共通点は本が大好きなこと。地元の公立と名門私立、中学で離れても心はひとつと信じていたのに、思いがけない別れ道が……。少女から大人に変わる十余年を描く、最強のガール・ミーツ・ガール小説。
 場所:半杓亭
 参加費:お茶おやつ代600円(この会でしか食べられない、おいしいおやつがでますよ~)
 定員:12名。要予約。定員に達した場合も告知いたします。
 予約先:初めて参加されるかたは、yatsuhamicafe.reading(at)gmail.comにお名前とご連絡先、アルコールの出る二次会の出欠を含め、ご連絡ください。

 定員に達しました。満員御礼。ありがとうございます。
 今回は課題図書がよかったのか、タイミングの問題か、新しい参加者が半分を数えました。うち2名のかたから当日キャンセルがあり、実際は10名での会となりました。次回からはこのあたりをちゃんとしないとなぁと思いました。
 個人的にも読書そのものがすごく楽しめた本でしたので、参加者の方々も同様に、小説の構成や引用された少女小説、ふたりのキャラクターの関係性などなど自身に引きつけて語っていただけたように思いました。なかでも今回は司会としての役割をしっかり果たせたな、みなさんにちゃんと話してもらえたなという実感がありました。次回も活かしていきたいですね。
 さて次回は4/1(土)です。タイトルはエイミー・ベンダー『私自身の見えない徴』角川文庫です。よろしくお願いします。

*1:場所を移動して行う、アルコールの出る二次会もあります。お問い合わせ下さい。