何かを「オリジナル」と呼ぶやつは、十中八九、元ネタを知らないだけなんだ。――ジョナサン・レセム
これから書くのは短篇小説に限った話だ。そして何を書くかではなく、いかに書くか、どうやって短篇小説を(途中で飽きることなく)書き上げることができるのか――どのようにして短篇小説を書き上げられるようになったのか、その一例だ。できあがった作品がおもしろいかどうかは二の次だ。そこの辺りを期待している人はページを閉じた方がいいだろう。小説家志望を自称することで己の矮小さをどうにかあやすことができている人間の、書く手を止めないための、その方法について記述する。
短篇執筆行程
1:アイデアの着想
2:アウトライン作成
3:プロット作成
4:本文執筆
5:出力原稿の赤入れ
6:4と5を時間が許す限り繰り返す。
7:完成
参考として最近書き上げた『海辺の喫茶店で見た世界の光』を元にひとつひとつの項目を時間の経過と共に見ていく。なお、プロットを詰めるのにDropbox内のtextファイルを編集できるiPhoneアプリTextforceを、執筆管理にはGoogle Chrome版と同期しているリマインダーアプリWunderlistを、本文執筆は主にWord2007を使っている。
1:アイデアの着想
Dropbox内に「企画書:女子会話」というtextファイルを作り、必要文字数や〆切日などの情報を書き込む。
暇を見つけてTextforce使い、テーマに沿った連想したイメージ、モチーフ、キャラクター、引用元になる作品名とそのシーンなど関連づけておきたいことをどんどんメモしていく。
メモしていく過程で「これだけは書いておきたい」ということが見えてくるし、わかってくる。
ここまででだいたい1週間ぐらいかかる。Wunderlistには「女子会話のアイデアを詰める」と毎日リマインドさせる。
2:アウトライン作成
作品を1行でまとめるとこうなる、というのを書きだす。これを書いておくと大筋でブレることがなく、迷った時に見直すと大いに助かる。
今回であれば「2人組の女の子がさびれた海の見える喫茶店である人物から本当か嘘かわからない話を聞くことで世界の一端に触れる会話劇」というものだ。
もちろん大筋なので当然ここからずれる可能性も残してある。必ず守らなければならないわけではなく、ゆるい縛りとして認識しておく。
Wunderlistには「アウトラインの作成」と登録しておく。このアウトラインを念頭にまた2、3日モチーフ収集を行う。
3:プロット作成
アウトラインを序破急を用いて3行で書きだす。
序破急についてはこちらを参考に。序破急のモデル 前編 序破急のモデル 後編
今回であれば「学校をサボった2人組の女の子が海の見える喫茶店にやってくる」「天文カメラマンとの会話から2人が海に、昨夜の流星を探しに来たことが明らかになる」「天文カメラマンからその隕石の写真を見せられそうになるがフェルミのパラドックスの話から、本当はそんなものを見たいわけではなく2人で何かすることそのものが今の主人公には重要だったことに気がつく」になる。
ただこれはこのブログを書くために慌ててでっち上げたもので今回は2行目まで書いたところで本文執筆にかかった。効率は落ちるが結末は考えながら書いたほうが、すでに終わりが決まっている/わかっているものを書くより楽しく、書きやすいのだ。
Wunderlistには「プロットの作成」と登録する。1日で行う。
4:原稿執筆
本文の執筆はシーンごとに細かに分割し、必要文字数から逆算して各シーンの文字数をおおよそ意識する。また「どんなに調子がいい時でも1日に集中できるのは30分2セットでだいたい700字ぐらい」という自分がどれだけの文字数を書けるのかを把握しておく。
Wunderlistには「本文執筆500字」と達成できそうな文字数を毎日決まった時間にリマインドさせ、「女の子たちの会話から各キャラと状況の説明」「天文カメラマンの登場」「流星の回想シーン」「フェルミのパラドックスの話」など具体的に必要なシーンを登録しておく。各個撃破で満足感を演出する。
今回であれば1週間から10日でWunderlistを消化し、結末までを書き上げることができた。約5000字だ。なおこの時、文章の質は気にせずストーリーをすすめ、文字数を稼ぐことを念頭に置いておく。ダダダッと書いていく。執筆用の、Wordを使うのでいっぱいいっぱいのネットブックを使用し、最低限の調べ物はiPhoneで代用する。
5:出力原稿の赤入れ
紙に印字した初稿に赤ペン片手に書き込みを行う。手を実際に動かすことで達成感を演出する。誤字脱字は元より意味の通らない文章やもっと噛み砕いた方がいい文章などにどんどん赤を入れていく。
このチェックがあるのでPC執筆時に気楽に書くことができるようになり、文字数を稼げ、書いた、という達成感が得やすくなる。
赤くなった出力原稿を片手にデータ原稿を修正する。これは1日あれば行える。
Wunderlistには「初稿の出力原稿に赤入れ」「初稿の推敲」と登録しておく。
6:4と5を時間が許す限り繰り返す。
〆切を考慮して行うがだいたい2回もできれば御の字である。
同じ原稿を何度も読み直すと飽きてきてしまうのもある。
この際、友人に読んでもらうと自分が気がついていなことなどを指摘してもらえる。
Wunderlistには「2稿の推敲」「感想をもらう」と登録しておく。
7:完成
〆切が来たら、応募要項を確認し、プロットから梗概を作成し、必要事項を記入し、応募する。
Wunderlistには「梗概の作成」「応募」と登録しておく。
以上である。できる限り見栄をはらずに実際的に書いたつもりだが、自然とできるようになっている部分は省略もしている。こういう習慣付けのための行程の具体化は、武道における型のように反射になるまで身体に刷り込ませることが必要なのだろう。
6年ほど前にサークルの大先輩に小説の執筆の仕方を訊ねた時「次の1行をその場で考えながら書いている」と答えられ、「すげぇカッコいい!」とそのまま真に受けてしまったことで、わざわざ準備することをダサいと断じて今日まで来てしまったが、もちろんその大先輩とは頭の出来もキャリアもまったく違うのにどうして自分にもできると考えてしまったのだろうか、はぁまったく。ヒマラヤに無装備で挑戦する前に富士山をちゃんと登れるようになる、これはそういう話だ。
このやり方を発展させて長篇も書き上げたいのだけれど、そこはまた別のやり方を用意しないときっとまた挫折するのは目に見えている。さぁてどうしたものか。