- 作者:海猫沢 めろん
- 発売日: 2020/03/13
- メディア: 文庫
すごくおもしろかった。どんなオススメコメントを書いても、すこしもおもしろさを伝えられる気がしない。それでも言葉を尽くしてみようと思う。まず「キッズファイヤー・ドットコム」で子育てから現代社会の問題を提示し、ITと人の誠実さからひとつの可能性、その萌芽を描き、続く「キャッチャー・イン・ザ・トゥルース」でその可能性を敷衍してあり得べき未来を描いてみせる。ただその至近未来は決してバラ色の社会ではない。既得権益がひっくり替えると強者は弱者となり社会は図らずともまた、生き辛い人々を生み出してしまう。それでもこの小説はそれだけでは終わらせない。また可能性を描く。だからこれはSFである。それもめちゃくちゃにおもしろくて、とてもリリカルなSFだ。
個人的なことではあるがかつて『零式』を読み、ゼロ年代を蕩尽した自覚のあるぼくには、ひと世代上の著者がこういう視点を提示してくれることを、とてもうれしく思った。