ブックスエコーロケーション

「SFとボクらの場所」をテーマにした本屋のブログです。実店舗はありません。開業準備中。

8月のまとめ『コールド・スナップ』など

読んだ本の数:13冊
読んだページ数:2491ページ

 思わず今月はマンガを買いまくってしまった、ようだ。ようだ、というのは特に自覚がなかったからだ。まぁしゃあない。積読をもう少し減らすようにしなければ、で読んでも楽しい読書はできないのだから。


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テスタメントシュピーゲル 2 (Kindle 連載)
 ついに続きが読める! というわけで1章を。ずいぶん前に1を読んだように思うのだけれど、さすがのクランチ文体――描写=説明の簡潔さが多くのキャラクターを一瞬にして目前に立ち上がらせてくれる。イラストもないっていうのに!w にしてもASAPを最初の特甲児童が言っているわけで、じゃあ黒犬の方に伝わった理由とかも今回で明らかになるのだろうか。あと今回のキーは素数なのな。にしても続きが待ち遠しいぜ。読了日:8月26日 著者:冲方丁


■コールド・スナップ
 舞城王太郎訳のトム・ジョーンズ。魂の双子というかトム・ジョーンズを受けての舞城だったよな。最初はおうおう舞城文体じゃんとなるのだけれど短篇ごとに繰り返されるモチーフが完全にトム・ジョーンズのそれなので、特に最後の「ダイナマイトハンズ」に至ってはもうなんかふつふつと熱い小説を読んだぜ、というそういう感慨が強くて誰が訳しているかなんて忘れてた。苦痛に満ちた世界でどうやってエネルギーの源泉を取り戻すのか。苦痛を感じるのはどうしたってそこに観測装置としての肉体があるから。その内側から沸き上がってくる感覚は、外部から与えられる恩寵とは異なりどこまでも実際的で、なんだろう、信じるに足る強さがあるように思うのだ。状況はいつだってクソだけれど、おれがこの地上にあるかぎりはどうにかしてやるよ、って感じか。特によかったのが「ロケットファイア・レッド」だった。読了日:8月25日 著者:トム・ジョーンズ


宝石の国(3) (アフタヌーンKC)

宝石の国(3) (アフタヌーンKC)

宝石の国(3) (アフタヌーンKC)
 フォスフォフィライトの進化?はとどまることを知らないようで、歪に組み合わされた宝石へとなっていく。その複雑さがある種の強さを獲得する一方で、失っていくものが増えていく。ラストで明かされる本当に失ったもの、その大きさを知るのは次巻か。読了日:8月24日 著者:市川春子


江戸しぐさの正体 教育をむしばむ偽りの伝統 (星海社新書)
 とてもおもしろかった。「江戸しぐさ」という偽史/オカルトがどのように創作され、拡散された過程をとても丁寧に検証してあり、それだけで頭がさがる本だった。ひとつひとつ丁寧に検証していくといやいやまさかと笑いながらつっこみを入れたくなってしまうようなことばかりなのに、その辺り巧妙なオカルトは高学歴者でもハマッてしまうという構造にはなるほどと唸ってしまった。こういう荒唐無稽な虚偽を根拠に学校教育で道徳を教えていることが、なぜまずいことなのかという部分もとても勉強になった。『オカルト「超」入門』もおもしろそうだ。読了日:8月20日 著者:原田実


最後の物たちの国で (白水Uブックス―海外小説の誘惑)

最後の物たちの国で (白水Uブックス―海外小説の誘惑)

■最後の物たちの国で (白水Uブックス―海外小説の誘惑)
「いまこの時点で私が望むのは、とにかくもう一日生き延びるチャンス、それだけです。」主人公アンナ・ブルームから届いた「極限状態における人間の愛と死を描く現代の寓話」だ。まぁつっても個人の感受性によってディストピアユートピアが決まるのなら、結局現実はいつだって極限状態のわけなので、訴求力がマジはんぱない。あとこういう、くたびれた崩壊間近の社会主義国家の中からどうあっても逃げ出せないというのは、なるほどなぁと思わせられた。描くもののために国家体制が要請されている感はすごく強いと思う。にしてもほんとオースターは水が合うのかすらすら読めるな。柴田元幸の訳のおかげなのかもしれないけれど。読了日:8月12日 著者:ポール・オースター


スピリットサークル 03―魂環 (ヤングキングコミックス)
 主人公やヒロインの泣くシーンの描きわけがとても丁寧で、すごいなぁって。読了日:8月11日 著者:水上悟志


戦国妖狐 13 (BLADE COMICS)

戦国妖狐 13 (BLADE COMICS)

戦国妖狐 12、13 (BLADE COMICS)
 千手観音の描き方が、どう見ても武井宏之の影響下にあるのはジャンプ世代としては非常にうれしく思うし、あのシーンは本当にすばらしかった。最終決戦も盛り上がってきました。読了日:8月11日 著者:水上悟志


恋煩いフリークス (ビームコミックス)

恋煩いフリークス (ビームコミックス)

■恋煩いフリークス (ビームコミックス)
 『終電までにはかえします』『甘々と稲妻』の雨隠ギドFellows!連載作。「変災」という自分の中で引っかかっている問題が外見へと表出してしまうという超常的な異変がおきた町を舞台に、その原因となった先輩と主人公のラブストーリー。描き方によってはもっと幻想にふることもできたと思うのだけれど、雨隠ギドの視点はやさしく日常に寄り添っているように思う。アメリカ西海岸系作家たちにどこか細く通じる雰囲気を持ちつつも、自身の変化に翻弄されてしまう、先輩が愛おしく、かわいい。にしても「変災の日」というネーミングには少しひやっとするような、穏当になったおれを強く意識もした。読了日:8月11日 著者:雨隠ギド


夫婦サファリ 1 (Feelコミックス)

夫婦サファリ 1 (Feelコミックス)

■夫婦サファリ 1 (Feelコミックス)
 脅迫結婚からの結婚生活ラブコメディ。ストーリーを駆動させるのはなんという屈折!w すばらしいすばらしい。今年の一番がすぐに変わってしまったw 華やかな画面作りでコメディにふってあるので時たま垣間見えるシリアスさがより際立って迫ってきて本当にすばらしい。特にすばらしかったのが90頁の主人公のモノローグだ。これを言わせられるかどうか、そういうところにジョージ朝倉のすごさを感じるのだった。あとここ数年ぐらいの現代風のモチーフの選択がすごくフィールヤングだなとも。読了日:8月10日 著者:ジョージ朝倉


昭和元禄落語心中(6) (KCx)

昭和元禄落語心中(6) (KCx)

昭和元禄落語心中(6) (KCx(ITAN))
 我欲のなさが稽古の多さにひっついてこないということなのかな。少しでもそういうものがあれが努力したことそのものがひとつの自信/過信につながるってぇもんだとあっしは思うんですがね。とりまヨタという存在は落語を再生するための透明な装置としての役割があってそれが次代へ繋ぐ、そういう役割を担わされているけれども、それを彼が無自覚に自覚したのがあの「啖呵売り」っていうことなんでしょうかねぇ。なんでしょうねぇ。そして因縁の「居残り」へと、ってぇことなんでしょうねぇ。読了日:8月10日 著者:雲田はるこ


NEW GAME! (1) (まんがタイムKRコミックス)

NEW GAME! (1) (まんがタイムKRコミックス)

■NEW GAME! (1) (まんがタイムKRコミックス)
 おもしろくて、かわいい。「今日も一日がんばるぞい!」のキャプ画像で話題の正統派萌え四コマ。ゲーム製作会社を舞台にここまでかわいい空間が描けるのか……。というかストーリーのみならず造本を含め、非常に丁寧で、あざとさがきちんと脱臭されていて、とてもかわいいというのは奇跡的なバランス感覚なのか、そういう風に洗練されていった結果なのか、とにかく興味深い1冊だった。余談だがAmazonで品切れるたびにえぐい値段がついている一方、地方の寂れた書店の片隅に初版帯付きが残っているので思わず買ってしまったのだった(自虐)。読了日:8月5日 著者:得能正太郎


春風のスネグラチカ (F COMICS)

春風のスネグラチカ (F COMICS)

春風のスネグラチカ (F COMICS)
 すばらしい!1930年代のスターリン体制下のロシアを舞台にここまで帝政ロシアを感じさせられるなんて!1ページごとの情報量の多さがここまであると読ませる読ませる。シシェノークの正体が明かされるシーンもすばらしいし、タイトルにつながるラストシーンもとにかくすばらしい。読了日:8月4日 著者:沙村広明