すべてはゼロから始めるために

小説家志望の雑記です。

「ビブリオバトル@丸善松本店with信州大学」

 縁あって発表者として参加してまいりました。残念ながら勝つことはできませんでしたが、なかなか貴重な体験でありました。紹介したタイトルは宮内悠介ヨハネスブルグの天使たち』でした。敗因は友人に指摘してもらったことを書けば「キャラが弱い。誰が何を言っているのかわかりづらかった。本を多く読んでいる人間の、上からの言葉だったからわかりづらかったのでは」ということでした。うーん、ただ本を読み込むだけではなくて、タイトルの選び方から話芸も含めて重要なのだなぁと改めて思ったのでした。でもなんか小学生ぐらいの男の子が『ヨハネスブルグの天使たち』を買っていってくれたと聞いて、それだけでもうやってよかったなぁと。普段それほど接点のなさそうなところへと接続する力が確かにビブリオバトルにはあるんだなぁ、すごいなぁと思ったのでした。
 あと自分がまだたった5分のために何時間もちゃんと準備に費やせる、そういう人間であるとわかったのもおもしろかったですね。レビューや小説を書く時とは別の脳みそを使ってる感じがあって非常に刺激的でした。
 さてその準備で作ったメモを公開しようと思います。実際この通りに喋れていればきっともう少しはスマートだったのでしょうが、やはりなかなかうまくはいかないものなんだなぁとw

 こんにちは、やつはみ喫茶読書会のKASUKAです。
 みなさんは初音ミクをご存知でしょうか。今日紹介する本は初音ミクを題材にしたものなんですが、はい、それがこちら。
(一拍溜める)
 宮内悠介の『ヨハネスブルグの天使たち』です。この短篇集は今回の直木賞の候補作にも選ばれたタイトルなのでご存じの方も多いのかもしれません。いや今回ビブリオバトルに参加するにあたってこの本に決めたら、その後、直木賞の候補作になって、いやーさすがはおれ、先見性マジすばらしい、とひとりニヤニヤしておりました。
(会場爆笑)
 いやー、それで表題作の「ヨハネスブルグの天使たち」なんですが、舞台は内戦が激化している南アフリカヨハネスブルグです。そこにある高層マンションでは、1日に1度、幾千の少女が「夕立」のように降り注ぎます。実はこの少女たちはロボットで、DX9という日本製のボーカロイド・ロボットなんですね。耐久性実験のために自発的な飛び降りを毎日繰り返すようプログラミングされてたんですが、内戦のために日本企業が撤退。後には延々と投身自殺を繰り返す少女型ロボットの群れが、風景としてだけ残されたわけです。まずこのイメージの、殺伐とした鮮烈さが本当にすばらしいんですね。やむことのない空爆と最悪の治安と少女たちの夕立――もう毎日が祝祭と思わなければやっていけなくなってしまっている、刹那の日常。
(一拍溜める)
 そのタワーの一室で暮らす戦災孤児の少年が白人の少女とともに、ロボットの1体を救おうとします。しかし力及ばず失敗してします。その後、少年は紆余曲折を経て、大統領になります(笑)。そして彼は最後には人種問題から発展した内戦に驚くべき、ある種、究極的とも言える方法を用いて、解決します。そこでここまで張られてきた伏線が見事に回収されて本当にびっくりしますし、何よりラストシーンでロボットが歌う歌がほんとうに胸を打つんですよ。
 そうやってどの短篇も初音ミクの末裔と読める、落下する少女型ロボットが出てきます。そのロボットを通して描かれる未来は決して明るいものではないんですね。暗くて圧迫された、閉塞感の強い、非常に殺伐とした、いまここに生きる我々となんら変わることのない未来なわけです。でもそこでは国や人種や言語が変わろうとも、そんな悲惨な現実に対して、なんとかして生き延びようとしている人々が描かれます。その姿は、人間を根っこから揺さぶる、強い感情を呼び起こします。ひとつの短篇を読み終わるごとに本を閉じて、ああなんてすごいものを読んでいるんだろうと、何度も余韻にひたることになりました。
 SFでなければ提示できないイメージのすごさと、人間の感情を強くゆさぶるストーリーが味わえる、今年出たSF小説の中でもっともおもしろい、『ヨハネスブルグの天使たち』、ぜひ読んでみて下さい。