ブックスエコーロケーション

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十文字青『灰と幻想のグリムガル』

 おれたち、なんでこんなことやってるんだ……? ハルヒロは気がつくと暗闇の中にいた。何故こんなところにいるのか、ここがどこなのか、わからないまま。周囲には同じように名前くらいしか覚えていない男女、そして地下から出た先に待ち受けていた「まるでゲームのような」世界。生きるため、ハルヒロは同じ境遇の仲間たちとパーティを組み、スキルを習い、義勇兵見習いとしてこの世界「グリムガル」への一歩を踏み出していく。その先に、何が待つのかも知らないまま……。これは、灰の中から生まれる冒険譚。――そこには幻想は無く、伝説も無い。十文字青が描く「等身大」の冒険譚がいま始まる!

 今回、編集K氏こと平和(id:kim-peace)さんの「灰と幻想のグリムガル」書店員さん向けゲラ渡し企画の告知 - Togetterまとめに手をあげまして、ゲラを送っていただき一足先に読ませていただきました。
 いやー、おもしろかった! 実は十文字青氏の作品を読むのは初めてだったのですが、これは確かに「あのころ」を思い出すライトノベルでしたね。ゲームは一日一時間――でも四六時中そのゲームのことを考えて、いざやれるとなったら短い時間でやりたかったことを全部やろうと躍起になっていた「あのころ」を。どうにかしてひのきのぼうで二刀流になれないかと苦心したことが、不意に思い出されて恥ずかしくなったのはここだけの秘密です。それがモンハンで愛用することになる双剣へとつながっていくというのもなんだか原始体験にすりこまれたのが、こう辻褄が合うような。いや違うか。
 突然放り出された剣と魔法の異世界・グリムガルで、ちょっと気弱で優柔不断な主人公・ハルヒロが仲間たちとの共同生活や戦闘をこなしていくうちに色々なことに気がつき、だんだんとパーティの中心になっていく過程は(もちろん読んでいて苦しくなるところもあるけれどそれも含めて)、とても楽しく読めました。やっぱりこう弱いキャラがだんだん強くなっていくというのは読んでてわくわくしますし、目的や課題の提示とその解決が丁寧でストーリーに緩急があって飽きさせないところはほんとさすがだなぁと。
 それにハルヒロがいわゆる最初から強いキャラクターではなくて、己が平凡であるということを知っているがゆえに、高望みせず自分の手札でそれでも勝負しようとするところがすごくよかったですね。自分を知っているっていうのはそれだけでかっこいいもんだなぁ、と思わせられるストーリーでした。若い読者にこそ、このかっこよさを知ってもらいたいですね。いやおれが憧れてちゃいけない気もしますが。