すべてはゼロから始めるために

小説家志望の雑記です。

長谷敏司「地には豊穣」

 『あなたのための物語』と設定を同じくする短篇。この作品は疑似神経制御言語ITP(Image Transfer Protocol)の実用化に向けての小説だ。ITPとは脳内のナノロボットが《本来は使用者の脳内にはない神経連結》を作りだすことで、経験そのものを伝達させ即席の専門技術者を生み出すことができる――脳というコンピュータに抽出された経験をインストールすることができる画期的な技術のことだ。ところがITPの開発者がアメリカ人であったため、英語圏文化への洗脳が懸念され、改善のための調整接尾辞(アジャスタ)が開発されることになる。ササキ・ケンゾーとジャック・リズリーが日本文化用アジャスタの開発チームに所属していた。ジャックは「経験伝達を使えばいまこの瞬間も失われつつある文化も、抽出記憶の形で蓄えることができる。かけがえのない財産である、文化そのものの保管庫(アーカイブ)を造ることだってできる。経験伝達技術の可能性は、専門技術者を即席に作り上げることだけではないんだ」と言い、一方ケンゾーは「(ITPは)人間という個体差の大きいコンピュータ上で、経験という同じプログラムを動かすOSだ。そういう技術に意味を求めたくはないな」と対立している。
 ……桜を美しいと感じるのは日本の文化に属しているから。
 人類は文化の箱舟なのか、文化があるから人類は存続できるのか。『NOVA3』の『東山屋敷の人々』と合わせて読むとおもしろいと思う。