すべてはゼロから始めるために

小説家志望の雑記です。

大森望責任編集『書き下ろし日本SFコレクション NOVA2』

 日本SF界を代表する作家から、ミステリ系、ホラー系、幻想系、ライトノベル系までが入り乱れた、前代未聞の書き下ろしSFアンソロジー第二弾。

 考課表です。今回は前後の短篇に選者の意図がわかるようなうっすらとしたわかる編み方がなされていて、全体を通してつながりがあるように見えてうまいなぁと思いました。執筆依頼で作品内容には踏み込めないだろうから並べ方の問題なんだろうなぁ。

 神林長平の言い回しがとても久しぶりで無闇とにやにや読んでしまった。『永久帰還装置』のガジェットが出てきてさらににやにやしつつ、毎度おなじみの、そして厳然たる「納得して死にたい」という表現に唸らされる。なるほど量子論SFへの痛烈な批判だし、おれはその考え方に惹かれる。

 語り口が幼いのでつい挿絵を期待してしまう。通常と逆転した世界のイラストがあればよりおもしろくなるのではないかと思ったのだけれど、それだと書いてある意味がないのかなと思った。郷愁を感じるようなタッチではなかったが、こういう物の感じ方をしていたよな、と思いました。

 度肝を抜かれた。最初はうむむ読みにくいなと思って、だんだん謎が明らかになっていくほどおお!おお!となって最後にはうはははと度肝を抜かれた。うーんやられたなぁw

  • 倉田タカシ「夕暮にゆうくりなき声満ちて風」0

 この本の特徴を端的に人に示す際にもっとも有用性のある短篇ではあるのだけれど……読めませんでした。なんでも中の文章を読めるように繋げると立体ができあがるそうです。

 いつも彼女の小説を読んで思うのは先行作品について具体的な言及がないことではないのだろうか。ブローディガンを踏まえて書いてあると解説になければ「祖父」が誰かわからない。このわからないという置いてけぼりの感覚を毎度彼女の小説には感じる。しかしそれにもまして厳戒令下の東京の不穏な背景が小出しにされるのがたまらない。いまいち和菓子と連関しているように思えなかったのが気になるが。

 「遠い彼方で」と「三毛猫」が好き。やわらかい文章を書かれるのだな、と思った。

 危機的状況にあっても人類は手と手を取りあって滅ぶ、とは円城塔氏の言葉だったように思うのだけれど、それを彷彿とさせる。アイデアもその描き方もこの短さの中でちゃんと崩壊していく過程が描かれていた。なんというか「ああこうなるだろうなぁ」という諦念がすごく自分に近いものを感じさせてぐいぐい読めた。

 斜に構えて読んだこれが、いまおれが一番読みたいタイプのSFだった。今風のガジェットの処理の仕方と異星の文化、それらの細部の描写に唸らされ、さらに受け継ぐ物語だった。女の子がきちんとかわいく描いてあるし、ストーリーのスケールも大きい。匂い立つリリシズムはとても泣きゲーと呼ばれるものを想起させたのだけれど、これはつまりそういうものをきちんと取り込んで小説にしているということなのだろうなぁ。うまいサンプリング例、という言い方が褒めているようには聞こえないのがなんとも申し訳ないけれども、胸をはってこの短篇が好きだと言えるし、こういう作品を読めたという、アンソロジーの醍醐味を図らずとも味わった。追記:こういうSF小説のことをきっとゼロ年代前半は「次世代型作家のリアル・フィクション」って呼んでいたんだと思うよ。

 アイデアがあり、そのアイデアがどのように社会に影響を与えるのか。新城カズマの〈あたらしいもの〉シリーズは一貫してそれを描いているのだけれど、もっとも顕著な方向として「法規」を意識しているのだな、とようやく気がついた。書いていない部分が多いように思えるので単行本化の加筆に期待したい。むしろ単行本化はまだですか。

 はじけるラストのイメージのなんとすばらしいことか。異形の物語であるにもかかわらずストーリーが実に端正だった。

 冒頭から始まる会話と素描がうますぎる。ミステリを書く人だからなのか読者に対して情報の提示の仕方がとてもフェアで驚くばかりだった。しかし事件が社会に与えた影響、という部分はよかったのだけれど、そこからの展開にうむむとなってしまう。そういうものをそのまま描いてしまうのは信じられていないと描けないよね、というギャップを強く感じた。まぁついもっとアクロバットな解決を期待してしまっていたのだろうけれど。

 しっかりと描かれるのに、それが空を進んでくるというだけで異常にイメージを喚起させられるのだなと思った。雲にさまざまなものを見るように。余談であるがこの方、ジェラルド・カーシュの『壜の中の手記』の翻訳者の方なのですね。その節はお世話になりました。こういうイメージ先行の小説を最初に好きになった本でした。


 このラインナップでさくさく読めて、ああやっぱり自分のホームはSFなのだなぁと思ったのでした。