すべてはゼロから始めるために

小説家志望の雑記です。

『音もなく少女は』ボストン・テラン*1

音もなく少女は (文春文庫)

音もなく少女は (文春文庫)

 貧困家庭に生まれた耳の聴こえない娘イヴ。暴君のような父親のもとでの生活から彼女を救ったのは孤高の女フラン。だが運命は非情で……。ここにあるのは悲しみと不運に甘んじることをよしとせぬ女たちの凛々しい姿だ。静かに、熱く、大いなる感動をもたらす傑作。

 とても挑発的な小説だ。何度も自分が「だらしない男」であることを意識させられる。積み重ねられていく悲惨と不運のデティールがいったい何によってもたらされるのか。

「ああいう輩は自分の個人的な敵を見つけると、その相手を敵でいつづけさせていることにもう夢中になってしまう。そうなると、それは相手が人間であろうと、何かの考えであろうと、ライフスタイルであろうと、セックスであろうと、障害者であろうと、市(まち)全体であろうと、人種であろうと、宗教であろうと、そう、世界そのものであろうと、もう関係なくなってしまうのよ。
 達成感を得るための黒魔術。わたしの父はそれをそう呼んでいた。心をむなしさに食い尽くされてしまった人たちは、敵を抹殺することに飢えて、個人的な敵を見つけるのよ。必要に駆られてそういう敵をつくりだすのよ。そうすることで自らのむなしさを埋めようとするのよ。でも、このことで何より恐ろしいところは、むなしさを埋めれば埋めるほど飢えが強まることね」

 そんなくそ世界に、否を突きつけるのが3人の女性である。描かれる女性たちにはすべて/創造者・保護者・破壊者があり、そしてそれゆえにまったきリアルである。彼女たちの世界は多くの悲しみによって縁どられるが、勇気とはその悲しみの克服すること、とフランは語る。即物的な苦痛ではなく、人生によって鋳造される悲しみこそが耐えるに値するというように。
 とても教訓的で、挑発的で、常に読者に「自らにふさわしい場所」に立っているのかどうかを問い続けている小説だった。
 とても良い小説だった。読めて本当によかったと思う。