すべてはゼロから始めるために

小説家志望の雑記です。

『微睡みのセフィロト』冲方丁

微睡みのセフィロト (ハヤカワ文庫JA)

微睡みのセフィロト (ハヤカワ文庫JA)

 祈りの小説。ここにある完成された切実さは長さも相まってすばらしい物語になっている。『ばいばい、アース』以後の冲方丁のメルクマール。祈りの小説だった。『微睡みのセフィロト』にはエンタメ小説のすべてがあり、そのすべてが祈りへとつながっている。すごいなぁ、これもこういう小説を書きたいな。こういうのが書けたら書くのをやめてもいいかもしれない。ああ『ハーモニー』の時とは違った、すごく素直な羨望があるよ。いま読むと、冲方丁のさまざまな要素がしっかりと刻まれてる。このモチーフを書かなければならない、という切実さに裏打ちされた安定感があった。キャラクターの構成や異能者バトル物の見せ方、リヒャルト・トラクルを彷彿とさせる指導者型のテロリスト。そして逃れようのない過去。この小説もラファエルやパットの過去への謎と、事件解決への未来の謎という二つのサスペンスが用意してあり、その二つがとても丁寧に解決される。お手本のような、賀東招二の『コップクラフト』を読んだときに感じたようなうらやましさがあった。