2010年代の日本SFの中軸を担うべき作家たちに新作を依頼し、それぞれの書き手が「これぞSF」と思う作品を全力で書いてもらった。――大森望
今回も考課表に挑戦してみます。-3〜+3で0が普通。一言コメントもつけます(あとで。をつけました。
- 北野勇作「社員たち」0
ふわふわふわっとした掌編。終わりのイメージが「っ」なのがポイントかも。
- 小林泰三「忘却の侵略」+1
地口でクトゥルフのしか読んだことがなかったのでこの先鋭的な改変ものにしびれた。こういう掴みきれそうで手を離れていくようなもやもやした難しさがおもしろい。
初読作家。ロジックがなんか気になってしまうし目新しさはないけれど、宇宙とセンチメンタルさというのはわかる。
- 山本弘「七歩跳んだ男」-1
本格ミステリィでうまい。けれど、おれもニューエイジを読む人に対してはこういう視点を持っているなぁと思いつつ、だからといってわざわざ小説にしてまで見下したいとは思わない。こういう風に使いたくはない、ということか。ええ、おれは小説はヒトの知性を総動員して生み出す崇高な読み物である、教徒ですので。
- 田中啓文「ガラスの地球を救え!」+1
なので、すかっとした馬鹿笑いを伴うSF賛歌のこちらの作品のほうが好きだし、楽しめたのでした。それっぽくアレンジされていた祝詞がよかった。
- 田中哲弥「隣人」+1
KASUKAは基本的に食事のときに読書する人間なので、どうしてもこいつにつまづいてしまって後回しにしていたらずるずると読めない事態にw どろどろした背後にみっしりとしたロジックが見え隠れするので読めるのだけれど、けれどだからといってこのアプローチはなぁでもすいすい読めるんだよなぁと悶々とした作品でした。
- 斉藤直子「ゴルコンダ」+1
いっぱい出てくる女性が、徐々にわかってくるところがぞくぞくした。オチがちょっと残念だったけど。
- 牧野修「黎明コンビニ血祭り実話SP」+2
言語現実改変SFの傑作だと思う。すこしも安心して読めなくて、しっかりとしたロジックがぐいぐい読ませる。わざわざこんなタイトルにしなくても、と思って読み終わったらまさに圧倒的にタイトル通りなのでぐうの音もでなかった。
- 円城塔「Beaver Weaver」+2
スペースオペラ。いやほんとです。でもこの作品で白眉だったのは円城塔が普通のリアリズムに沿った小説を書いてきて、それをやっぱりくつがえしてみせたということか。くるぞくるぞと思ってニヤニヤしながら読んでしまった。
- 飛浩隆「自生の夢」+3
2回読んだ。すごかった。傑作です。テクノロジカル・ランドスケープが生み出した/出すであろう「もの」を原始以来人間が語ってきたその「なかみ」として描き出すというアプローチ/文明批評もすごい。作中でいっぱい知らないことに言及、参照されているけれど、それが層をなしてきちんと格納されていることがわかるし、格納されている「それ」が作中の
誰か完成させてくれよ、なんていう誰かはいないけれど自分が、とは言えないのがただただ悔しい。
言語や記述に関するSFが多いのは、それが作家にとってもっとも近しいテクノロジーだからなんじゃないのかな、と思う。身近で深淵で目を背けようとしてもそこにあるものだから。なんていうことはすでにどこかで誰かが記述しているだろうその補強でしかないのである。
なお、今回もほそいたけおさんが考課表のまとめをされております。