- 作者: ヘミングウェイ,福田恆存
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2003/05
- メディア: 文庫
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キューバの老漁夫サンチャゴは、長い不漁にもめげず、小舟に乗り、たった一人で出漁する。残りわずかな餌に想像を絶する巨大なカジキマグロがかかった。四日にわたる死闘ののち老人は勝ったが、帰途サメに襲われ、船にくくりつけた獲物はみるみる食いちぎられてゆく……。
徹底した外面描写を用い、大漁を相手に雄々しく闘う老人の姿を通して自然の厳粛さと人間の勇気を謳う名作。
感想などすでに書きつくされている感のある小説をひさしぶりに読んでみた。ここでどんなことを言っても「すでに書かれている」ということに吸収されてしまうだろう恐怖が、KASUKAの背後で爪を研いで待っている*1。
ハードボイルドの主要件を小鷹信光は不屈・禁欲・非情・冷静であると言っていた*2。ストーリーは上記あらすじの通りで、ミステリィ的な起伏の対岸にはあるのだけれど、この小説はハードボイルドの要件を満たしていた。ハードボイルドは人間のための、理想の物語だ。強い、物語だ。起き得ることしか描かれないこの小説では、個人の、決して屈してはならない瞬間を、つまりその老人の全存在を賭けた瞬間を切り取り描き出す。Always on the deck.老人の闘いにはすべてが込められており、彼が休む際に見る「ライオンの夢」は、だからこそ見事に光り輝いている。
ただ……確かにヘミングウェイの削ぎ落とされた文章は誰が翻訳しても大して変わらないのかも知れないけれど、これはちょっと劣化しているのではないのかな。高見浩の訳は未読だけれどさてどうだろうか。金原瑞人のはかなりよかったように思うけれど。
*1:もちろん、解説も読まない。書いてから読むようにしている。感じたことを矯正される前に書き留めておくために。