ブックスエコーロケーション

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『重力ピエロ』


 というわけで観てきた。原作は未読。
 邦画はおもしろくないと思う。特にアクションと豪華俳優を前面に押し出したようなやつ。非常にコマーシャリスティックなくせにそれを恥ずかしげもなくおおっぴらにしているようなやつ。そんなので木戸銭払って観に来ている人を説得/魅了できると思っているんだから、ほんとうに、だ。
 その意味でこの『重力ピエロ』は地に足を着けた世界が丁寧に描かれていて、観ていてほっとした。もちろん伊坂幸太郎だからミステリー、というかエンターテイメントとしての突飛な謎がある。けれどまぁそれは正直隣に置いておかれているし、そういうのを楽しみに観る映画でもないと思う。結構最初のほうの伏線、というか徐々に家族の謎が明らかになっていく過程で犯人はわかってしまうからだ。
『STRANGE FICTION』の作家紹介の伊坂幸太郎の欄*1に書いてあったことをそのまま引用するけれど、「あらすじを説明せずにそこだけ*2を抜き出してみればわかるように、言葉自体は何の変哲もないし、内容も普遍的に大事なことだ。(中略)だけど全体を読むと、記憶に残るのだ。その言葉を持ってくるタイミング、どんな行動をとる人物が発するか。絶妙にコントロールすることによって、格好良さやユーモアややさしさが浮かび上がる。」ということがこの映画にもきちんと反映されている。俳優の演技も、伏線もそうだし、かつての台詞や言葉の絶妙な繰り返しが、映像的に見せるということもあいまってきちんと機能していた。観に来ている人に、観に来てよかったと思わせる、そういう映画に仕上がっていると思う。
 家族の映画、と言ってしまえば2時間もかけて観るようなものなのか、と思ってしまうだろうけれど、大丈夫、ここにある2時間はまぎれもなく説得力に溢れているから、席を立つことなんてできない。

*1:石井千湖の署名記事。

*2:〈本当に深刻なことは陽気に伝えるべきなんだよ〉