- 作者: 北方謙三
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2004/11
- メディア: 文庫
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男がいた。
男がいる、ではない。いた、だ。
男の躰のなかでは、なにかが止まっていた。毀れていた。
その毀れ方は、われわれの倫理や道徳なんかを一顧だにしない、強靭さを持ち合わせながらただただそこにあった。情緒性を徹底的に排した硬質な文体が描くのは、何事にも動じることのない/動じることができない透徹した空虚感だった。
男は、どんどん毀れていった。自ら進んで、より深く。
暴力やセックスやカー・アクションに彩られた物語であるにもかかわらず、男の感情が盛り上がることはないし、熱を帯びることもない。やれるだろうことをやる、ということをただただやっているだけだ。そしてそのストイックさが、われわれにとっては非常に危険なものであるにもかかわらず、そしてだからこそ、どうしようもなくかっこいいのだ。
そういう男が、この『擬態』のなかにはいた。