すべてはゼロから始めるために

小説家志望の雑記です。

古川日出男について

 古川日出男は強い作家だ。強い言葉を使い、強い物語を描く。決してきれいでうつくしい言葉が使われているわけではない。速く、強く、乱暴で、したたかである。
 戦場で使われる英語をバースト・イングリッシュと呼ぶ。単語を圧縮し、短い発語で情報を明瞭に伝えるために強いアクセントと速い言い回しで、叫ばれる言葉。それが生き残るための、ひとつの方法だから、彼らは話すべくしてそれを話している。

 呆然としながら、しかしオリエンタは言う。おれはオリエンタなんだよ、な? と。誰かに言う、おれはオリエンタなんだよ、な? と。必死に。オリエンタは三人めの死について、しばしば取り憑かれたように考える。春、うしなわれてしまった最後の親友。自殺、自殺……ジサツ。それはどんな衝動だ? それは、糞っ、感染するのか? ウィルスみたいに? おれは誰かに、言われつづけてるな、死ネトイウノカって。死ネトイウノカ、死ネトイウノカ、死ネ、死ネ、死ネって。
 死なねぇ。
 おれは壊れねぇ。
 生き残ってやる。
「おい、お前ら」とオリエンタは声に出して、言う。「おれはおれ自身をオリエンタって、お前らがいないけれどもオリエンタって、呼びつづけるわ」*1

 古川日出男の言葉は強い。そう、バースト・ジャパニーズと呼んでもさしつかえないぐらいに、強いのだ。そうやって古川日出男は言葉を、物語を生き延びさせようとしている。いつなんどき読まれても問題のない強度を獲得しようとしている。
 その生存への希求は、まるで「明日死んでしまうぐらいに」*2速い。そうだ、いまこの瞬間ですら目の前から過ぎ去ってしまう、それをそのまま書き写したような速さを伴っている。
 この相反するものを同時に内包するがゆえに古川日出男の小説は、ぎらぎらとした圧倒的なサバイヴ感を獲得し、それがひいては祈りに似たものへとつながっていくのだ。

*1:LOVE

*2:ルート350