すべてはゼロから始めるために

小説家志望の雑記です。

小川一水『フリーランチの時代』

フリーランチの時代 (ハヤカワ文庫JA)

フリーランチの時代 (ハヤカワ文庫JA)

 幼年期が終わったのはぼくたちじゃなくて、小川一水だと思うんだ!
 短編集。タイトルは一作目ので、なんかランチをご飯じゃなくて引っかけるほうに思ってしまって、何を自由に?と妄想たくましくしていたのだけれど違った。では一作づつ。

  • フリーランチの時代

 大ネタ1本勝負。1文目から勝負に来てて、「ここからはSFだ!」と読者の世界を強引に切り替えようとしている勢いに一瞬くらくらめまいがした。逆に言えば、この熱量が今までの小川一水と圧倒的に違う点だろう。たぶんもっと色々細部に気を遣って書いてある/書きたいのだろうけれど、そういうのをあえて無視してヴィジョンの壮大さで力任せに勝負している。時間のスパンが人類と決定的に違う存在がその端緒だと思った。

  • Live me Me

 設定の不遜さに、というかおれの凝り固まった倫理観にあっさりと手を突っ込んできて無造作に色々と入れ替えられたおかげでたまらなくぞわぞわした。きもい。たまらなくきもい。おれはやっぱりいまの身体でもって観測した世界で生きているのだから、この身体がまったく別種の観測機器となった場合において、それはたぶんおれではない、という結論に至るのだろうと思ったのだ。その意味で、この作品は実にぞわぞわした。そんな馬鹿なと思った。しかしそれに気がつかせてもらったという意味で、多大なる感謝をしたいと思う。

 プラネテスみたい*1、と思った。このスピノール設定は『天涯の砦 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)』にも出てきたやつで、おおなるほどこれが小川一水の(現実と地続きという意味での)未来のヴィジョンなんだな、となるほどなぁと思った。この会話の楽しさと、主人公の性格には大いに感情移入できるが、別に最後決心しなくても、と思ってしまった。そこだけどうにもお仕着せの成長をされてもと思ってしまうのは、イトカワのミッションの壮大さがきちんと理解できていないということなのでしょうか、すみません。

  • 千歳の坂も

 うーん。ネタとしてはおもしろいのだろうけれど、結局何が書きたかったのだろうか、と。何千年たっても人の、ある部分における性善性は変わらない……うーん。あ、でもダイ・ヘイヴンが途中からデス・ヘイヴンへと表記を変えてあるのがしびれた。うまい、と思った。結局ダイとデスではデスのほうが圧倒的に「死んだ」感が強いものな。

  • アルワラの潮の音

 傑作長篇『時砂の王 (ハヤカワ文庫JA)』のスピンオフ、とは知らずに読んでいて、なんで海洋古代国家が舞台なのにレーザーなんかが出てくるんだろうと思っていたら、アレキサンドルやオーヴィルが出てきて「おお(笑)」となって裏面をひっくり返してああこいつがスピンオフなのか、と思った。目新しいネタはないけれど、なんというかとても安心して読める。南洋島嶼文明の描写もとても目に鮮やかでよかったし、なにより知っているキャラクターが出てくるという、それだけで楽しいものだ。あ、でもネタとしては遊泳型よりも浮遊型のほうがエネルギー効率がいい、というのはよかったな。そこだけくっきり浮かんで覚えている。


 おれはそんなに熱心な小川一水読者と言うわけではないけれど、彼が魅力的で明晰なネタをどういう風に料理するんだろうというにはとても興味があって読んでいる。だからやっぱり最初の2作がとても楽しいし、おもしろかったということになるのだろうな。この短さでめっぽうおもしろいと感じるのは特に。でも、できれば後半に行けば行くほどおもしろい、という短編集であってほしかった。ちょっと最初の2作がよすぎて期待しすぎたか。

*1:宇宙が異界ではなく、陸の人間が海に出るときのようにある程度の知識と技術によって人間の生活できる環境である、と大きく明示している点で。