ブックスエコーロケーション

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『ハローサマー、グッドバイ』

ハローサマー、グッドバイ (河出文庫)

ハローサマー、グッドバイ (河出文庫)

 ブラウンアイズが非常にかわいい。しかし不吉なまでのかわいさで、ああそうだ、夏は終わっちまうもんさ、と思ってしまう。いまさらながらに青春小説好きの男の子は、Mが多いのではないのかと思った。
 しかし、青春小説、というよりもむしろ児童文学に思えた。
 読者よりも愚かでありながなら実にまっすぐに見える/融通の利かない姿勢は、どう考えても読者の「いま」ではなく「かつて」のものである。オンタイムではなくパストであり、つまるところ過ぎ去ってしまったものを読んでいる場合において、おれはそれを青春小説ではなく、児童文学と呼んでいる、ということがわかった。収穫。
 しかし児童文学だからといって、決してこの作品の主人公・アリカ−ドローヴが痴呆的な無垢さに彩られていることを言っているわけではない。親の庇護からの解放、すなわち自我への獲得へと向かっている点で、さかしくめまぐるしく思考を行っているが、その思考そのものが大仰である、というとてつもない懐かしさがあるのだ。そいつをストレートに書いて読者をやきもきさせつつ、ひたひたと忍び寄る物語の終わり/フリージングで不穏な空気をしっかりと描写してあるのだから、なんともあっさりとテクニカルなことをやっているなぁ、と思った。
 で、ラスト、見事にSFしていて、舌をまいた。うひょお!と叫んでしまった。英国的異世界ファンタジーか、と思っていたらすんげぇSFしててやられた。
 ラストの1文のために、ストーリーと、異星の設定とがきちんと密接に融合していて、風景描写もじつに納得のいく伏線になっていて、うーんこれは完成度が高い。確かに。
 あと、このSF的な謎を生かすために、時代設定がされているのだけれど、大氷結が日常化した世界ではどんな風な慣習として受け入れられているのだろうか、という点も気になった。そしてたぶんこれが二次創作へ、という風になるのだろうけれど、どうやら山岸真の解説によれば続編もあるそうなのでぜひぜひ訳していただきたい!と思った。どうやら数世代あとの話のようだから、たぶんいおれの言う、日常化した世界ってのが描かれているのでは、と勝手に期待している。