ブックスエコーロケーション

「SFとボクらの場所」をテーマにした本屋のブログです。実店舗はありません。開業準備中。

小説家志望書店員的状況論

 私はいま、雑誌・文庫・新書を担当しているのですが、このごろのトピックはやはり、デアゴスティーニの歴史のミステリーと地球の好物、もとい鉱物。このふたつの創刊号は笑ってくれていいのですが前者が100で後者も70も入って来たというのに、両方とも昨日・おとといの土日をまたぐことなく、あっさりと息絶えてしまいました。完売御礼申し上げます。バカ売れ。
 んで、今朝から「歴史のミステリー、ありますか?」と数えること十数回。こう連続して途中から聞かれるたびに噴き出しそうにwwwやめて笑顔じゃなくて無愛想にやりたいのにwww
 これはおれが聞かれた回数ですの、もちろん他にもいるでしょう。定期購読の処理も、発売後一週間にしては異例の各3人w少ないと思われるでしょうが、創刊号から、という方はめったにいらっしゃいません。うちの店は大きいので入荷数も多いと判断されているせいか、たいして定期購読されることも少ないのですが*1、こいつはすげぇことになったな、という実感を。


 私の部屋にはテレビがないのですが聞くところによればかなりCMをやっているとのこと。日本人は己を認識するために過去や足元やお約束にどうしても視線を向けがちな人種*2、デアゴ、さすがにかっちりマーケティングしていますな。デアゴは全国販売の前に静岡版とか神奈川版とか岩手版とかを半年ぐらい売って、その結果を全国版に反映させているという念の入れよう。頭が下がります。文芸出版社も、これぐらいやればいいのに。作家の出身地とかちゃんと考慮して、さ。 いやあんまし意味ないかな。


 これは偏見ですが、作家も読者もシニアへ近づくにつれ時代小説を好む風潮があります。時代小説です。「歴史小説」ではありません。時代小説は佐伯泰英平岩弓枝澤田ふじ子山本一力なんかを指します。んで、「歴史小説」ってのは既存の、勝者/中央によって「捏造された」歴史から生まれいずる文化・価値観・社会通念・道徳を、周辺者/スリップ・ストリームの視点による異なる歴史から再定義しなおす/問い直すことができる小説のことで、そこには「新たな歴史/世界/社会/個人」が描き出され、読者は多大なまでのセンス・オブ・ワンダーを得ることができます。たとえば 『ベルカ、吠えないのか?』や『ロックンロール七部作』や『赤朽葉家の伝説』や『Xのアーチ』を指します。違いは、明確ですね?
 もちろん昨今話題の桜庭一樹ライトノベルから一般文芸へと転向してあるかなしかの文壇に権威づけられる前に、すでにかぎかっこつきの読書を趣味と公言してはばからない、そういう方々の食指にはびびっと来ていた作家ではあります。ほらそういう読者用の作家としてはこちらをどーぞ。http://www.hontai.jp/
 で、そういう方々は決して、かつては読んだかもしれませんがおそらくいまは西村京太郎や内田康夫赤川次郎は買われないでしょう。もちろん上記の時代小説作家群も、しかり。年代構成的にはひどく大雑把に、10・20代:閉塞したライトノベル/メディア違いだけれどケータイ小説、20・30代:本屋大賞的作家/大人買いライトノベルで、40・50代:トラベル・ミステリーで、50・60代:人情時代小説という流れ*3があるように思われます。
 さらにその思考には、前者のかぎかっこつきの読書を趣味としている読者はその「みんなが知らないものを知っているんだぜ、どうだへへへ」という視点によってたち、後者のお約束事消費系読者は「そうそうこういうのこういうの、いやぁおもしろい」という安心感を求めて本を購入されています。その意味で、もしかすると時代小説とライトノベルは非常に親和性が高いのかもしれません。チャンバラや長屋、脱藩、剣豪といったオタク・コンテンツの消費形態と似た記号的消費、シリーズ物が重宝される、という点も、発売日に一番売れ、定番ものが幅を利かし、ドラマ/アニメ化すると飛ぶように売れる。
 ASAVAがハードボイルドの意匠をライトノベルに持ち込むのならば、おれは時代小説を、なんて書いたとしてもチャンバラがメインになってしまうがwwwまぁなればこそ古武術が生きてくるかwww


 まぁなんつうかあっさりと言えば、ポストモダンよね。そんな島宇宙群をいっこのPOSレジで連続処理しているとなんだか万華鏡じゃなくて、民家を巻き込んだ後の土石流に襲われたような感覚に茫然としてしまいます。


 そんな濁流のなかで、わたしはなにをよるべに、書き続ければいいのか。うーんやっぱり決断主義だな……どうしてもここに落ち着いてしまう。


 あとここではたとえば講談社ノベルス系好きやハーレクインオンリーやBLも買うよ系や定番SFや官能小説カバーつけてくださいやダ・ヴィンチよりも本の雑誌が好きやベストセラー本をクリスマス・ラッピング読者に関しては割愛しています。ただケータイ小説に関してはここにすでにすばらしい状況論がありますのでこちらを参照のこと。


 少女たちのポストモダン - ケータイ小説に見る彼女たちの記号的消費
 http://d.hatena.ne.jp/foxintheforest/20071202/1196598036

*1:それでもいっぱしの店よりはだんちで多いとは思います。ほぼ毎日定期購読の処理をしていますので

*2:ではありますがかくいう私もエジプト考古学から民俗地理学へと転向しているのであんまし軽蔑もできない。小中高は過去にしか視点を据えられていませんでした。

*3:必殺客層ふんいき語り。