ブックスエコーロケーション

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『メシアの処方箋』機本伸司

メシアの処方箋 (ハルキ文庫)

メシアの処方箋 (ハルキ文庫)

 ヒマラヤで氷河湖が決壊した。下流のダム湖に浮かび上がったのは古代の「方舟」だった。こんな高地になぜ文明の跡が?いぶかる調査隊をさらに驚愕させたのは内部から発見された大量の木簡だった。それらにはみな、不思議な蓮華模様が刻まれており、文字とも絵とも判然としなかったが、なんらかのメッセージを伝えているのは確かだった―。一体、何者が、何を伝えようというのか?
 第3回小松左京賞受賞作『神様のパズル』に続く、傑作長編SF、待望の文庫化。

 表紙の絵のインパクトが強くて、「メシアたりうる赤ん坊をめぐった、イケメン大学生と富豪少女とアングラ情報屋のアクション活劇」を想像したのでは俺だけではないはず。
 その予想をものの見事に裏切って、イケメン大学生は機本伸司の前作『神様のパズル』と同様の頭の悪いワトソン的役割を担うヘタレで、富豪少女はビッチ性だけはばりばり高い関西弁のねーちゃんで話も半分終わってからの登場*1だし、アングラ情報屋と思しきサングラス男は蓮華模様の研究者というか考古学者でクール*2な考えが基本スタンス。ジェケ買いしたわけではないのだけれど、表紙はかなりの誇大広告のように思った。いやそんなに可愛い女の子を期待しているのならライトノベルを読めということなのでしょうが。
 物語の主眼は、「方舟」から出土した木簡に描かれた蓮華模様にどのようなメッセージが込められているのかを探ることにあり、その方法としてゲノム解析や企業戦争や子育てやテーマパーク建設などを経るのだけれど、いや、そんなのねぇ研究所やテーマパークの描写に行を割かなくても、と思わなくもない。あと俺自身、生命倫理の問題にはなんの畏敬も感じないので、それに行を割くのもちょっとテンポ悪いよね、と思うわけですがまぁそこはSFのお約束なのかもしれませんね。でもだからってそっちの方へイーガンばりに物語が展開するわけでもなく、クライマックスは安田講堂立てこもりの焼き直しに見えて、あー説教臭い、と感じてしまいました。
 あと、「メシアのメッセージ/人類への処方箋」を主人公のワトソン的バカくんは、最後の説明ではなくバカはバカなりに身体的な感得によって言いたいことを提示して欲しかったし、それを直截的に書いたら「小説」として終わってしまっているのでは、と思った。まぁ、50000年前に方舟を遺しに地球にやってきたデザイナーとそのワイダニットを探るという、SF的ビジョンはめちゃくちゃ壮大でそれだけでお腹一杯になったのですが、いかんせんその満足感を阻害する要素が多すぎたのでは、と思いました。

*1:メシアの代理母として。

*2:ここでいうクールはかっこいい、のほうではなく、冷たい、のほう。おいおい。