すべてはゼロから始めるために

小説家志望の雑記です。

『ボディ・アンド・ソウル』古川日出男

ボディ・アンド・ソウル

ボディ・アンド・ソウル

 宇宙を構築している“真実の音”に耳をすませろ―この低音世界で。
 主人公フルカワヒデオが現存するカルチャーについて徹底的に思索し、言及することにより現在の「東京」と対話する物語。ノンフィクションとフィクションの境界を破った、まったく新しい小説の誕生。

 古川日出男私小説。彼の、当時の、作家生活がアップテンポに描かれていく。「小説を書く」ということをどのように捉えているのか、それを前面に押し出し、決して飽きさせない饒舌さ。
 当然だけれどもわれわれは普段、会話相手によってその表情やテンションを変えている。好きな相手/嫌いな相手/初対面/見知った人/恋人にあわせて、語り方を変えている。同様にこの作品も、フルカワヒデオ/チエ*1の文体は、章が変わるごとに動揺する。その振動は、読者を心地良く受け入れ、ときに突き放し、徐々にフルカワヒデオが、チエが、どのような人物であり、どのような関係を構築し、そして喪われるにいたり、どのようにして取り戻そうとするのか、が、描かれる。
 その回答として、描かれるのはやはりどうしても「書き続けること/物語ること」なのである。
 喪われたフルカワヒデオに成り代わることによって、フルカワチエはフルカワヒデオを取り戻す。フルカワヒデオという筆名を使い続けることによってフルカワチエは、フルカワヒデオを生還させ続ける。フルカワチエのボディに、フルカワヒデオのソウル。それをつなぐアンドが、この作品だ。
 ああ、なんとも、手の込んだラヴ・レターではないか。

*1:作中の、妻。人には見えないものを感じ、身体の動かし方を知っている、すでに死んでいる女性としてフルカワヒデオに描かれる。