すべてはゼロから始めるために

小説家志望の雑記です。

『檻』

檻 (集英社文庫)

檻 (集英社文庫)

 やくざな世界から足を洗って、今は小さなスーパーを経営している滝野和也。そのスーパーの買収工作をめぐるいざこざから、滝野の野性の血が再び噴き出す。結局は「檻」の中にとどまれず、修羅場に戻ってゆく男の美学を、鮮烈な叙情で謳いあげた北方ハードボイルドの最高傑作!(解説:北上次郎

 初・北方謙三にして、ハードボイルド勉強の第3弾!*1
 じつのところ本書の魅力に関しては解説の北上次郎が全部語ってしまっているので、正直それを読んでもらうのが一番なのだけれど、まぁそれを言ったら書く意味がないので、そこを外して感想を。
 ただただ透徹した文体が、痛みと描かれない感情を読者に与える。猫舌の主人公・滝野は今までずっとコーヒーがしっかり冷えてまずくなるまでカップに手をつけることがなかったのに、ラスト近くで、妻のコーヒーを熱いままわざわざ飲む描写はほんとうに、そこになにも感情を言葉ではちっとも描かれていないのに泣かせる。そういう風に登場するキャラクターはかなり魅力的に描かれいる。で、そのディテールがすべて主人公が血を取り戻すための道具立てに使われている。殺人事件や高飛びや鉄砲玉やリンチの描写はたしかに盛り上がるのだけれど、それもすべてが「檻」から抜け出すための小道具にすぎなくてとってもすっきりあっさりしている。どんな風に滝野が、ある種堕ちていく/駆け上っていくさまを目に焼きつけるか。もうね、ただただ生き様しか描かれていないのよね。それがもうかっこいいし、次が無性に気になって仕方なかった。仕組みがわかっているのに熱中したのは久しぶりだったので、紹介してくれたASAVAには本当に感謝だ!

*1:ちなみに第2弾は村上春樹世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド〈上〉 (新潮文庫)』でこいつについては三年越しようやく読了感無量。こんな比喩、そんな展開をやっても「小説」として成立する様をまざまざと見せ付けられた感じがあった。