- 作者: 筒井康隆,貞本義行
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2006/05/25
- メディア: 文庫
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物置同然になった無人のはずの理科実験室に誰かいる!ガチャーンとガラスの割れる音が響いた。和子が薄暗い部屋の中を見回すと、試験管が床に落ちて割れていた。中から液体がこぼれ白い湯気のような甘い匂いが漂い、急に和子の嗅覚を襲った。彼女はそのまま、軽い貧血を起こして気を失った。
だが、意識が回復すると、不思議な事件が立て続けに起こった。どうも、あの匂いをかいだことがきっかけで、彼女に特殊能力がそなわったらしい。
少女が不思議な空想の世界を体験する会心の表題作、ほか2篇収録。
初筒井康隆!(笑)。
ほうぼうで読めたもんじゃない、劣化しすぎ、というようなレビューを読んでいたので、身構えていたのだけれど、なんだまだまだ堪えられるじゃん、とびっくりする。
今と比較するなら、価値観がまったく違っていて当たり前な初出なわけで、それを古臭いというのはナンセンス。
あえて言うなら、「当時」を見事に切り取っている。そして未来への思いが丁寧に描かれている。当時は「はしたない」という言葉がきちんと機能していた。などいろいろ発見があって楽しい。
そうだ、読書とはそれすなわちタイム・トラベルであり、文化の違いとは時代の違いを明確に提示する。
だから、この作品と細田守『時かけ』は見事に「当時」を活写している、といえるだろう。
ま、好き嫌いで言うなら、もちろん「和子」よりも「真琴」の方が、好みですがね、わたくし。