すべてはゼロから始めるために

小説家志望の雑記です。

『憑神』

憑神 (新潮文庫)

憑神 (新潮文庫)

 時は幕末、処は江戸。貧乏御家人の別所彦四郎は、文武に秀でながら出世の道をしくじり、夜鳴き蕎麦一杯の小遣いもままならない。ある夜、酔いにまかせて小さな祠に神頼みをしてみると、霊験あらたかにも神様があらわれた。だが、この神様は、神は神でも、なんと貧乏神だった!
 とことん運に見放されながらも懸命に生きる男の姿は、抱腹絶倒にして、やがては感涙必至。傑作時代長編

 浅田次郎を読んだのは、実は3年ぶりで、この人の一番はやっぱり『プリズンホテル〈2〉秋 (集英社文庫)』で、正直『壬生義士伝 上 (文春文庫 あ 39-2)壬生義士伝 下 (文春文庫 あ 39-3)』で持ち直したけれど、以降はあんまり読む気がしなかったのですが、時代小説へと傾倒することには、時代小説でしか描くことできない日本と日本人の姿があるから宮部みゆきも、なのかなぁとか思っていたので、実は『憑神』の文庫化は待っていた、っていうのが正確かも。


 あいかわらず説教くさいのだけれど、侍言葉や江戸前言葉や伝法な言い回しっていうのが文字を追う際に一瞬外国語のような響きでもって目に飛び込んでくるので、それに慣れるまで文章そのものを楽しむことができてよかった。
 人物造詣もたくみで、主人公に「気のいい人」をすえるのも、読者のことがよく考えられていると思う。感情移入しやすいしね。ただシリアス一辺倒で行くのかと思うと、うん?これは笑いどころなのかな?んん?という感じのパートが挿入されて、そのリズムに慣れるころ物語も中盤を過ぎた、疫病神が現れるあたりでようやくくすくす笑えるようになる。これはちょっと最近の浅田次郎を読んでないからなのか、それとも単なるミスなのかはよくわからなかった。
 
 また、この物語で描かれるのは、幕末における侍像(官軍/幕軍)に新たな一面を、「江戸の侍」という視点から加えていること。それが主人公の選択であり、設定を回収しつつきちんとラストシーンへとつなげて見せているのが秀逸。セリフの切れとあいまって見事というしかない。あと、物語の長さの割りに疲れないのも、死神によって彦四郎の時間は限定されており、最後にカタルシスが待っていることが明示されているからだろう。そこで見せるのが、見せつけられるのが、上記の新たな侍像ではないのかと思う。

 毎月毎月発行されてはシニアなライトノベルの様相で消費されている多くの時代小説の中でも、これは異色で画期的で実験的な作品ではないのだろうか、と身贔屓をしてみるKASUKAでした。