ブックスエコーロケーション

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『ドラグネット・ミラージュ2 10万ドルの恋人』

ドラグネット・ミラージュ2 10万ドルの恋人 (ゼータ文庫)

ドラグネット・ミラージュ2 10万ドルの恋人 (ゼータ文庫)

 15年前、西大西洋に現れた「ミラージュ・ゲート」。その先に広がっていたのは、剣と魔法の支配する特異な世界――レト・セマーニだった。現代文明と魔法文明がぶつかる混沌のサンテレサ市でベテラン刑事マトバと美少女剣士ティラナは、特別風紀捜査官として難事件に立ち向かう!ファンタジックポリスアクション、待望の第2弾!

 ライトノベルで読む『マイアミ・バイス』ってのが一番的確だと思う。『マイアミ・バイス』が黒人と白人の異文化による摩擦と衝突とそれを通過した先にあるバディ物であるならば、それを賀東招二は日本人と異世界人へとスイッチさせながら「サンテレサ市」という社会/箱庭の中で見せる、ライトノベルな刑事ドラマへと見事に変奏している。
 ハードボイルドが典型にみる美学の集大成的なジャンルであるならば、それの係累であるアメリカ刑事ドラマもまた同じ文脈で語ることができるはずだ。シリーズ前作で、賀東招二は執拗にこの物語をアメリカ刑事ドラマのコードで読み取らせようとするようなあとがきを書いていたことからも、このシリーズをそういう位置づけで語ることは大筋で間違ってはいないだろう。
 そのアメリカ刑事ドラマのテイスト/空気感に、異世界ファンタジーの典型である美少女魔法剣士を重ねたのが斬新ではなかろうか。また舞台設定・時代設定ともに、現代と地続きであるがゆえに、その魔法文明の存在によってどのように社会が変化し、「サンテレサ市」が混沌としているかを丁寧に描いており、世界改変SFとしても読めるのがうれしい。またそれが作品世界に奥行きを生んでいるのはとも考えられた。というか賀東招二は〈フルメタル・パニック〉シリーズでも同様の手法をとっており、決して〈きみとぼく〉の物語に終始することなく「組織」や「社会」を描き出すことができる、ライトノベル界には稀有な作家なのではないのかと、KASUKAは考えるのである。
 つーかそういうのがたぶん好きな作家なんでしょうね、賀東招二って。単純に萌えキャラいっぱいな落ち物を書くよりも。
 あと、あとがきというかボーナストラックは、賀東招二が過去にインタビューで答えていた創作理念をうまーく表現しているのではないのかと思った。なんだ、あのインタビューでは「作家なんかやめとけ」みたいな感じだったのに結構優しいところがあるんじゃん(笑)。