ブックスエコーロケーション

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『推定少女』

推定少女 (ファミ通文庫)

推定少女 (ファミ通文庫)

「あんまりがんばらずに、生きていたいなぁ」巣籠カナは、そんな言葉を呟いてしまう15歳の少女。ある夜、家族とのトラブルから家出し、町のダストシュートで、とんでもないものを発見する。――それは銃を握ったまま眠る全裸の少女だった!UFO出現と銃撃事件で大騒ぎの町を、眠りから覚めた少女“白雪”とカナは逃亡する。東京へ着いたふたりは火器戦士の千晴に出会い行動を共にするが、そこへ黒い謎の影が――!?
 新世代青春エンタテイメント登場!

読了。
ライトノベルって言葉は蔑称だったり敬称だったり個人によって定義が曖昧だったりするのだけれど、KAUSKAが読む/読みたいライトノベルでもっとも重視するのが、疾走感とゴッタ煮感と青春である。
 桜庭一樹の『推定少女』はその意味において、まさにドンピシャな、「ライトノベル」だった。もちろん漫画的なタイポグラフィや脇の甘い比喩が目立つとかそう言った意味でのライトノベルではない(いや確かに目立つけど)。SFやミステリィといったサブジャンルが漫画的なリアリティの上で見事にゴッタ煮されている。それでもきちんと物語の統一がなされているように感じられるのは、「15歳の閉塞感」が読者の同世代感として真に迫ってくるレベルで描かれているから/徹頭徹尾、それを主眼に物語が描かれるからだ。
そして『推定少女』はこの閉塞感からの「逃亡」を軸に展開するロードノベルだ。しかしここで逃亡するのは年齢によってジェンダーをいまだ規定されていない/ある種ジェンダーから解放されているぼくっ娘、「巣籠カナ」であることは特筆するべき点であろう。ジェンダーを規定されていない、ということはつまり「まだこれから何にでもなる可能性を秘めている」ということの現れであり、同様にそれは「火器戦士・千晴」にも言える。それと対比されるように描かれる「大人」は「柿のような臭い」がしたり「香水の臭い」が強かったりとあざとさすれすれであったが、それがいい意味でのわかりやすさにつながっているのではないかと考えられた。
また、逃亡の契機として描かれるのは、宇宙人/異邦人「少女・白雪」との出会いである。その意味においておそらくかなり意識的にセカイ系の様式を桜庭一樹は採用している。しかしここで描かれるのは「少女×少年」ではなく、「少女×推定少女」である。だから「巣籠カナ」は本来は見通しできない未来とともに逃亡していると言える。そして「少女・白雪」はこの「逃亡」を闘い方のひとつである、その方法のひとつであると強調する。この桜庭一樹の変奏によって、主人公「巣籠カナ」は「逃亡」を15歳の閉塞を感じていたあの頃の「自分の証/記憶」として、理解することができるようになる。
そうだから、この物語のラスト、「逃亡」の極上の疾走感が鮮やかで爽やかな「記憶」へと転換するさまは本当に鳥肌ものだった。
あー高校生の頃に読んでおきたかったと思えるようなそんな小説で、いやぁ桜庭一樹は絶対KAUSKAと同じような高校生活だったろうなぁとか思って、前から持ってた作家性への親近感が今作でより強くなりました。うん、これぞまさに同世代感(笑)。