すべてはゼロから始めるために

小説家志望の雑記です。

『天涯の砦』

天涯の砦 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)

天涯の砦 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)

 地球と月を中継する軌道ステーション〈望天〉で起こった破滅的な大事故。虚空へと吹き飛ばされた残骸と月往還船〈わかたけ〉からなる構造体は、真空に晒された無数の死体とともに漂流を開始する。だが、隔離されたわずかな気密区画には数人の生存者がいた。空気ダクトによる声だけの接触を通して生存への道を探る彼らであったが、やがて構造体は大気圏内への突入軌道にあることが判明する……。真空という敵との絶望的な戦いの果てに、“天涯の砦”を待ち受けているものとは?
 小川一水史上、最も過酷なサバイバルが始まる――期待の俊英が満を持して放つ極限の人間ドラマ。

 一晩で読みました/読まされました。この分量で息切れもせずに最後まで緊張感を持って描かれるのは、今年最高の冒険小説!@北上次郎週刊ブックレビュー
 まずやられたのが生存者のキャラクター造詣。それなりに役割分担の配されたキャラクターと思うことなかれ、なんと今作には「バロット」にも「ジュリー」にも負けない非常に官能的で挑発的で魅惑的で刹那的な少女「キトゥン」がいます(笑)。実は今まで小川一水は堅実に着実に作品を上梓しているけれど、冲方丁秋山瑞人に比べるとちょっと……という感覚があったのですが今作の、「キトゥン」の登場を受けて「うひゃあ……一皮むけやがった」と感嘆してしまいました(失礼)。
 しかしまぁ相変わらず人間への深い信頼感に裏打ちされてますなぁ……災害のあとに待つのは人災と相場は決まってくるのでしょうけれど、それを決して悪意だけでは描かないってのが、小川一水の凄いところか。だってどうあったってどのキャラクターに同情できてしまうのですもの……この叢書には冒頭に事故後の残骸の平面図が載っていてどこに誰がいるのかわかるよう名前が書いてあるのですが、途中で、第一部の後半あたりで、もうその平面図の名前を見ただけでキャラクターがそばに立ち上がってくるのです!(笑)
 まぁそれだけ(たとえそれが理想だったとしても)危機に、危険に瀕した際の「人間の選択」ってのを綿密に丹念に描いているのではないのかと、KAUSKAは思ったのでした。
 いやホント、今年はSF関係、豊作でしたなぁ……。