- 作者: 古川日出男
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2006/12
- メディア: 単行本
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シェフである僕たちは旅立とうとしていた。22時22分22秒、雪。終電は僕たちを乗せ、走り出す。世界が化石になる前に、“あちら側”にたどりつけ。「注意しろ、意識のスイッチを奪われるな」夜の静寂を破る冒険が今、はじまる―― 疾走する言語と肉体、遊戯する物語。第19回三島賞作家・古川日出男の新境地意欲作。
読了。
冬のファンタジーでした。アクの強い/KASUKA好みの文体が綴るのは、与えること/変化すること/失うこと/救うことか。多分に神話的な構造(「僕たち」は死んだ仲間に会いに「東京の冥界」に仲間とともに旅立つ)を持っているのだけれど、『LOVE』とは違って文体のスタイリッシュさがかなり抑え気味。スラッシュも太字も使われないから正直ちょっと物足りないくらい。
でもこの物語はこの文体で合っている、とKASUKAは思ったのです。
なぜってこの物語で描かれるのは「与えること」だから。『LOVE』で用いられる文体の、先鋭的な攻撃的なスタイリッシュさが「生き延びること/闘うこと」を描いているのだとしたら、『僕たちは歩かない』におけるこの文体の「やわらかさ」はどう考えても「与えること/愛情」へと繋がっていく――身震いしました。そうなると色々と繋がっていくのです。主人公の「僕たち」は「シェフ」で食事を与える側だし、もてなした「画家」はすばらしい絵画と「東京の冥界」への順路を与えます。もちろん他にも色々とあると思います。
そして「雪」の寒さとやわらかさが通奏低音となって物語を、「僕たち」の冒険を包んでくれます。そこにはやはり「救い」のようなものが提示されているのではないのか、だからこそ最後のセンテンスで「防備しろ」という言葉が、古川日出男の「愛情/祈り」が綴られるのではないのでしょうか。
まぁ今日の日にここに書いたのはかなり自虐も入っておりますが、な(笑)