すべてはゼロから始めるために

小説家志望の雑記です。

『マルドゥック・ヴェロシティ』

マルドゥック・ヴェロシティ 2 (ハヤカワ文庫JA)

マルドゥック・ヴェロシティ 2 (ハヤカワ文庫JA)

腐蝕の血、拮抗する狂気
 廃棄処分を免れたボイルドとウフコックは、“三博士”のひとりクリストファー教授の指揮の下、9名の仲間とともにマルドゥック市(シティ)へ向かう。大規模な再開発計画を争点にした市長選に揺れる街で、新たな証人保護システム「マルドゥック・スクランブル―09」の任務に従事するボイルドとウフコックたち。だが、都市政財界・法曹界までを巻き込む巨大な陰謀のなか、彼らを待ち受けていたのはあまりにも凄絶な運命だった――

マルドゥック・ヴェロシティ 3 (ハヤカワ文庫JA)

マルドゥック・ヴェロシティ 3 (ハヤカワ文庫JA)

灼熱の暗黒、失墜する魂
 ギャングの世代間抗争に端を発した拷問殺人の背後には、闇の軍属カトル・カールの存在があった。ボイルドらの熾烈な戦いと捜査により保護拘束されたナタリアの証言が明らかにしたのは、労組対立を利用して権力拡大を狙うオクトーバー一族の影だった。ついに牙を剥いた都市システムにより、一人また一人と命を落としてく09メンバーたち。そしてボイルドもまた、大いなる虚無へと加速しつつあった――暗黒と失墜の完結篇

 読み終わりました。
 わかってますよ、「失墜」ですものどうあったって死にますよ、そりゃね。
 でもね、やっぱり辛いわけですよ、あんないい仲間が、09のメンバーが縊り殺されていくのを、ページをめくることで/読み進めていくことで、自分の手で彼らを殺戮していことが、ね。。。
 だから途中で、特に3の途中で読むのを中断しました。クリストファーが拷問されるあたりの戦闘とか、クルツとオセロットの関係とか、もう辛く辛くて。キャラクターに萌えられないことを自認していたつもりだったのですけれど、こんなに彼らに感情移入したのはあれよ、システムを確立していく過程で犠牲になっていく人々を、ついつい自分に重ねちゃったんですね(笑)これは情けないことでした。(いや、でもそう思わせる冲方丁が巧いのか)
 まぁそんな私事はともかく。
 前作『マルドゥック・スクランブル』を読んでいれば当然わかることなのですが、ボイルドは虚無に囚われています。
 ということは今作『マルドゥック・ヴェロシティ』では彼の虚無への失墜が、その軌跡が描かれることはわかりきった、当然の前提なわけです。
 だからこそ1では研究所の09のメンバーを実に魅力的に描き(ウェットに富んだ会話/至高のパートナーシップなど)、2ではナタリアとの恋愛(!)を描き、123を通してウフコック/良心の象徴との交流を描くことによってボイルドの外堀を埋め、彼の人間性(虚無への傾倒)を浮き彫りにしていきます。人としてどうしても受け入れらない醜い部分を持ちながら、それを肯定して彼ら(09メンバーやナタリアやフライト刑事)はボイルドの周囲に存在し、ボイルドもその中で存在し、読者のそばに立ち上がってきます。
 そして準備は整ったとばかりに3で、すべてを殺戮/鏖殺していくのです。生存への本能と血脈と同性愛と近親相姦の愛憎が物語の回転軸、その中心となって血の花火を咲かせ、終幕へと回り続けました。
 多様な視点に立って読むことのできる重層的な物語であると、言うのは簡単です。
 だからこそ次の言葉で持ってこのレビューを締めくくろうと思います。
 絶望の只中にありながら希望を願う/有用性の証明(居場所の獲得)を賭けて闘う=悪運/命の、精神の輝き、という点において、それはやはり舞城王太郎古川日出男に通じるものがある。これはエンターテイメントととして世界に投げかけれた「祈り」だ。だからこそ、この作品はKASUKAの嗜好にぴたりとFitするのだろうとも、思いました。