ブックスエコーロケーション

「SFとボクらの場所」をテーマにした本屋のブログです。実店舗はありません。開業準備中。

2017年オススメ本5冊

 今年の読書のまとめ記事です。それではさっそく行ってみましょう。

 SF短篇集。表題作の「公正的戦闘規範」がまさに伊藤計劃以後の作品として、ズバ抜けてすばらしかった。技術と人間性の摩擦が見事に表現された1作だと思う。どの短篇も新しい技術が一般化していく過程で、人の手を離れ加速していく様を期待を乗せて描いており、デビュー作の頃より通底している作者の姿勢なのだなと気がつかされる。ただそのためちょっと似たラストになりがちなのが気になってしまう。たぶんアイデアと、その突き詰め方を別の雑誌に乗った状態で読めば気にならないのだろうなと思った。

屍人荘の殺人

屍人荘の殺人

 本格ミステリ。勘の良い人はタイトルでピンとくるだろうけれど、こういう方法でクローズドサークルをつくるアイデアに、ボンクラ具合をかなり刺激されるし、なにより神紅のホームズとワトソンの関係性が泣かせる(そしてそれすら伏線になる!)。名探偵もかわいいし、読みどころが多い、見事な本格推理小説でした。読書会で『十角館の殺人』を読んだあとで、というのもあってなるほなるほどうなずけるところもあったのもタイミングがよかったのだろうな。ただ読むなら今のうち感、ありますね。なにも知らずに読んで欲しい類の1冊。とかなんとか思っていたらミステリ系ランキングで3冠とかすごいことになってます。

キッズファイヤー・ドットコム

キッズファイヤー・ドットコム

「群像」に載った中篇が2篇。A面の「キッズファイヤー・ドットコム」でクラウドファンディングによる子育てから現代社会の問題を提示し、ITと人の誠実さからひとつの可能性、その萌芽を描き、続くB面の「キャッチャー・イン・ザ・トゥルース」でその可能性を敷衍してあり得べき未来を描いてみせる。ただその至近未来は決してバラ色の社会ではない。既得権益がひっくり替えると強者は弱者となり社会は図らずともまた、生き辛い人々を生み出してしまう。それでもこの小説はそれだけでは終わらせない。また、可能性を描く。だからこれはSFである。「テクノロジーが人間をどう変えていくのか」をリリカルに描いた、SFなのだ。あと、これはほんと限定的なオススメの仕方なのですが「次世代型作家のリアル・フィクション」を好きだった方々にぜひ読んでもらいたいやつでした。

あとは野となれ大和撫子

あとは野となれ大和撫子

 かつて中央アジアに存在したアラル海。塩の沙漠となったそこは今、アラルスタンという小国だ。主人公のナツキは紛争によって両親をなくし、高等教育機関たる後宮に身を寄せていた。同様にそこでは様々な理由で居場所をなくした女性たちが、政治家や外交官、技術者を目指して日夜勉学に励んでいる。そんななか、現大統領が何者かに暗殺され、国の危機にもかかわらず中枢を担っていた男たちは逃亡し、残ったのは後宮の女性たちのみという状況に。生きる場所を守るため、ナツキたちは自分たちで臨時政府を立ち上げ、「国家をやってみる」べく奮闘するが……。
 宮内悠介のすべてがここにあった。いままで培われてきたものがすべて投入されているから、彼の既刊を読んでいると泣けて仕方がない。それでいてあらゆる要素がバラバラではなく有機的につながっていてストーリーは加速度的に盛り上がっていく。ナツキ、アイシャ、ジャミラ、イーゴリや東洋人観光客(!)まで含め、魅力的なキャラクターたちがほんとうに愛おしい。読み終えて人物紹介表を見直すと、彼女たちが表情を伴って生き生きと立ち上がってくる。各人の寄る辺のなさと現状の過酷さ、そこに立ち向かっていく強さがまばゆく輝いていた。読めてよかった1冊であり、ほんと今年はオススメしまくった1冊でもありました。

自生の夢

自生の夢

 10年ぶりの短篇集。初出時にすべて読んでいたので実質再読だった。にもかかわらず文章の切れ味の鋭さに気後れしてあんまり読み進められず、すごくゆっくり3ヶ月ぐらいかけて読んだ。 常に切っ先を突きつけられながら、一瞬の気が抜けない集中力が必要な読書だった。次の文章、次の文字でがらっと物語が変転してしまいそうで油断できない。そういう不穏さがあった。初読時にはそんなふうには思わなかったのだけれど。 不可逆のアンウィーブへの恐怖と興味が同一にあるんだな。理解されたい、解いて欲しいという感覚が、不穏さを伴う昭和の風景がめちゃくちゃになりながらも適応していく日常の強靭さと、すごくいびつに共存しているというか、そのことそのものが「海の指」という小説なんだなと思わせられた。「星窓 remixed」は確か「SF Japan」に掲載されたので読んだから確実に10年以上前。なので随所の表現に自作で無意識に真似てる部分があって、あーすごく吸収してたんだなぁ影響をもろに受けてたんだなあと思った(笑)。
 しかしこう並んだ作品を続けて読むことで、ようやく、なるほど表題作「自生の夢」を中心とした流れがきっちりとあることがわかっておもしろかった。なので、これは本で読んで読み直せてよかった。そう思える読書だった。どの短篇もひとの手に負えない巨大で遠大なものを、その周囲を描くことで浮き上がらせようとしているように読める。そこに音楽、料理、誰かへの発破や追悼といったとっかかりが用意されているように思える。まあ思えるからってじゃあ読み解けるのかって言われれば別の問題だけれども、この込められた多層さがやっぱりさすがだなぁと感服しきりの1冊だった。


 というわけで今年のまとめをやってみたわけですが、ほかにも読んでおりますのでそちらの並びはリンク先を参照ください。
bookmeter.com

精霊使いと軌道猟兵(トニトルス)1

kakuyomu.jp
 Twitterのほうでは小出しにしていましたが、カクヨムで連載を始めてみました。『精霊使いと軌道猟兵(トニトルス)』の1話、よろしくお願いします。






 ここ二年ほど、冬が近づくと仲良くなった人との関係を手づから破壊するようなふるまいを繰り返していて、いい加減ちゃんとしなきゃなと思ったので、応募用の長篇を一旦休止して短期間で走り抜けられそうな企画を考え、それに集中することで、冬のそういうふるまいを封印することにし、どうにか成功した。これぞまさに自己陶冶である。

11月の読書のまとめ

読んだ本の数:8冊
読んだページ数:1515ページ

普通の本屋を続けるために 感想 久禮 亮太 - 読書メーター
■普通の本屋を続けるために
 日々の荷物に殺されないようにするというのは確かになぁとなりました。読了日:11月29日 著者:久禮亮太


■公正的戦闘規範 (ハヤカワ文庫JA)
 表題作がズバ抜けてすばらしい。技術と人間性の摩擦が見事に表現された1作だと思う。そのほかの短篇も新しい技術が一般化していく過程で、人の手を離れ加速していく様を期待を乗せて描いており、デビュー作の頃より通底している姿勢なのだなと気がつかされる。読了日:11月27日 著者:藤井太洋


宝石の国(8) (アフタヌーンKC)

宝石の国(8) (アフタヌーンKC)

宝石の国(8) (アフタヌーンKC)
 ダイヤの発言が衝撃であり、設定の大ネタが明らかになりつつも、そこに主眼をおいていないことも明らかになってきたように思う。読了日:11月24日 著者:市川春子


ヴィンランド・サガ(20) (アフタヌーンKC)
 苦難の道をどう切り抜けていくのか、単純な暴力の能力が高いがゆえにこういう環境を設定しないと盛り上がらないというのがトルフィンの大変なところなのかなぁと思った。読了日:11月24日 著者:幸村誠


■先生とそのお布団 (ガガガ文庫)
 こんなつらく悲しい物語を読ませられるとは思わなかった。こんな道を歩き続けるためには、やはり同道者が助けになるのだなと先生と布団の関係をうらやましく思い、何より石川博品レベルですら何者でもないとか言われたらと思わず自分を顧みて読むのが進まなかった。たいへん切実な、いい私小説でありました。読了日:11月24日 著者:石川博品

 

エドウィン・マルハウス (河出文庫)
 こっわ、というのが読後の最初の感想。芸術家ってこわい!読み始めは濃密な描写につぐ描写で、はは~んこれは読者の記憶を刺激してゲシュタルト崩壊を起こさせて幻惑させるためだなと思って読み進めていたのだけれど、きっとそれは違っていてエドウィンがすぐそばにいるような感覚を得るためで、そう思ったところであのラストである。こわすぎである。そして「復刻版によせて」がにくい作りになっている。ここに全部書いてあると認識するころには術中にはまっているわけですよ!笑 読了日:11月22日 著者:スティーヴン・ミルハウザー


恋は光 7 (ヤングジャンプコミックス)

恋は光 7 (ヤングジャンプコミックス)

■恋は光 7 (ヤングジャンプミックス)
 つに完結。よかったよかったという感情と、なるほどなーという納得と、あとがきに対して、ええんやで10年後の彼らとか描いてくれてええんやでという感情が渦巻く。読了日:11月19日 著者:秋枝


■吉田同名 -Sogen SF Short Story Prize Edition- 創元SF短編賞受賞作
 おもしろかった。ワンアイデアをしっかり考察して描くことでめちゃくちゃ読ませるSFになっていた。淡々とした語り口が説得力を増していたように思うし、時にくすりと来てよかった。読了日:11月01日 著者:石川宗生
半分世界 (創元日本SF叢書)

半分世界 (創元日本SF叢書)

 このタイトルを収録した短篇集がでるらしいので期待している。


 あとはドラマ化の話を聞き、懐かしくなって思わず『電影少女』をまとめ買いしてみたが、要所要所のシーンしか覚えておらず、たぶん床屋の待合室で飛び飛びで読んでたんだろうなぁ。最終巻にまとめられている恋のエピソードが好みだった。
 そのほかに大量に異世界転生もののコミックを読み散らかした。実作に反映できるといいかなと思っているが疲れからくる単なる消費であったようにも思った。